ルビーが上へあがってしまっても、おれは床掃除をさせられた。モップではなく、床に這いつくばって磨いてまわれという。

　黒人のロジェとサイモンというアメリカ人が監視していた。このアメリカ人もプロレスラーのようにでかい。ふたりはビールを片手にポテトチップスを喰い散らかしながら、おれをからかった。

「もっとかわいい尻をあげな」

「また濡れてるのかい。もう何にも入ってないだろう」

　このふたりに尻を小突かれながら、床を拭いてまわる。キッチンとダイニングと廊下、玄関ホールを磨くとくたくたになった。

「よし、ごくろう」

　サイモンはビールボトルをおれの口におしつけた。突然の液体にむせる。

「下の口にもごちそうをやろう」

　彼はそういうとパンティをずりおろした。ビールボトルの口をアヌスにつっこもうとする。

（――冗談じゃない）

　おれはたじろいだ。ボトルを中につっこんで空気圧の関係で抜けなくなったという話を聞いたことがある。こんなことで医者にいきたくはない。

「よせ」

　とっさに手が出ていた。ボトルがサイモンの手から飛ぶ。床をすべり、壁にあたった。
　サイモンがにぶい目で見下ろしていた。

「ビールはきらいか」

　彼は相棒のほうに目をやった。黒人が何か放る。サイモンがつかみとると、その手に短いベルトがあった。

「手をだしな」

　危機だ。おれはにわかに男に戻った。床を蹴って逃げようとした。が、足がころげる。とたんに強い腕につかまれた。

　学生時代だったら逃げられたかもしれない。数百のタックルをふりきってきた。だが、当時はハイヒールなんか履いていなかった。

　サイモンはおれを羽交い絞め、腕をつかみとろうとしていた。ベルトが手首にとめられる。そしてさらに片腕がつかまれた。おれは暴れた。下肢で跳ね上げ、獣のように身もがいた。だが、もうひとりの巨漢が腰の上に乗るとどうにもならなくなった。手をとられ、背後にいましめられる。

「離せ。いいかげんにしろ！」

「ギャグあるか」

　サイモンが聞くと、黒人はすでに用意していた。ボールが口におしつけられ、後頭部にとめられる。それでもおれは興奮して吠えた。

「じゃじゃ馬だな。おしおきがいる」

　おれはギャグの中から絶叫した。

　ロジェがおれのペニスをつかみ、根元から引っ張った。引きちぎられるかと汗がどっとくだる。彼はそこに何かを巻きつけた。

「ようし、立ちな」

　おれはボールを飲み込まんばかりに口を開いた。ペニスが引かれ、ちぎれそうになる。

　あわてて腰から立つ。つま先が痛いのなんのと言っていられなかった。

「ほら、こっちだ」

　ロジェは無頓着にペニスにくくったコードのような紐を引いた。天井のひとつの張りの下に立つと、その片端を勢いよく放る。紐は弧を描き、梁を超えて彼の手に戻ってきた。

「お嬢ちゃん、背中を向けな」

　早く、と脅す。ペニスをとられて、厭は言えなかった。彼に背を見せると彼は腕の枷をいじった。

「いいぜ」

　動こうとしたとたん、激痛に髪が逆立った。この悪党はおれの腕にペニスの紐をくくりつけたのだ。おれの腕とペニスは天井の梁を通して引っ張り合う形になっていた。

　おれは痛みと恐怖にふるえた。ヒールがカタカタ音をたてる。このハイヒールのかかとがすべりでもしたらおわりだ。

　ふたりの悪党がおれの前に立った。ロジェが憮然と言う。

「メアリ。おまえは心得違いをしている。旦那さまがおやさしいのはおまえのからだに傷をつけたくないからだ。だが、礼儀知らずがお好みってわけじゃないんだ」

　白人のサイモンのほうが歯をむいて上機嫌に言った。

「あんまり引っ張るとペニスの中の繊細な組織が死ぬ。二度と立たなくなるぜ」

　ロジェがぼそっと命じた。

「片足で立て」

　おれは喘ぎかけた。二本足で立っても、足首が転げそうなのだ。とてもできない。
　ロジェは歩みよった。

「命令されたら聞くんだ」

　手を出し、ペニスを吊る紐をはたく。おれは身をのけぞらせて叫んだ。ロジェは許さず、なお紐を弾きつづける。そのたびにやわらかい器官が絞り上げられ、頭の中で白い火がはぜるようだった。

（やめてくれ。もうやめてくれ！）

　さらに弾かれ、おれは苦痛に痙攣しかけた。夢中で左足を浮かせる。

「そうだ。そうしていろ」

　彼はおれの背後にまわり、口の枷をとった。「騒ぐなよ」

　おれは右足元が狂わないよう懸命だった。ロジェがまわってくるなり、いきなり紐が弾く。頭が白み、口をあけた途端、

「騒ぐな」

　彼の黒い目が正面から見た。

「返事だ。命じられたら、ハイ、ロジェさま。サイモンに命じられたら、ハイ、サイモンさま。おわかりか、お嬢ちゃん」

　おれはふるえながらうなづいた。

「ハイ、ロジェさま」

「どうして罰を受けているかわかるか」

「ハイ、ロジェさま」

「どうしてだ」

「逃げようとしたからです。ビール瓶を入れるのが厭だったんです。あれは抜けなく――」

　ロジェがまた紐をはじく。だまれ。おれは身をこわばらせて悲鳴をこらえた。

「おまえが好きの嫌いのは聞いていないんだ。おまえの話なんざ誰も聞きたかない。聞かれたことだけに答えろ」

「……ハイ、ロジェさま」

　だが、おれの右足は耐えられなくなっていた。からだがふるえるほどに太ももが痙攣している。体勢を直したかったが、跳ねればえらいことになってしまう。

「ロジェさま、もう…痛…」

　後ろで見ていたサイモンが顔を出す。

「ハハ、糸の房みたいに元気ねえな。ちょっとゆるいんじゃないか」

　おれは泣きそうになった。彼の手にはプラスチックのおもちゃがあった。かすかな音をたてて振動している。

「やめ、やめろ――やめてくれ」

　おもちゃがペニスに触れる。締め上げられた敏感な部分を微細な電気が連打する。おれはたまらずのけぞりかかった。

　とたんにヒールがすべる。

（ひっ）

　ペニスが引きちぎられそうになった瞬間、黒人の強い腕が腰を支えた。「おっと――」

　おれはあわてふためいて足掻いた。大地を探す。

「そら、左足をあげてな」ロジェが腰を支えたままとがめる。

「もう、やめてくれ。もう耐えられない。本当にもう」

「お許しください。ロジェさま、だ」

　サイモンがまた亀頭にローターを近づける。腰を抱えられ、ペニスをいじられ、おれは歯を食いしばった。右足は肉離れをおこしそうになっていた。

「お許しください、ロジェさま、サイモンさま」