おれの自慰はふたりのボディガードも見ていた。
「あのおっぱいの手はどういう意味があったんだ」
サイモンがからかって背後からブラジャーをもむ。
「こうされると気持ちいいのかい。先生」
おれは口もきけずにいた。赤の他人に、秘密をさらしてしまった。媚薬に酔っていたとはいえ、とんでもないことをした。死にたいほどだ。
情けないのは主人の目が冷かだったことだ。いうとおりにしたのに主人は鼻でわらっただけだった。
おれはキッチンで野菜を洗いながらぼう然としていた。とりかえしのつかないことをした。やるべきではなかった。
食事の後、また床掃除をさせられた。
サイモンとロジェはこの日は特にいたぶらなかったが、おれは打ちひしがれていた。手錠でつながれたダイニングテーブルの足元で、声を殺してすすり泣いた。
自分が恥ずかしくてつらかった。何年ぶりだろう。泣くなんて。
知られてはいけなかった。
このおれが、法廷の狼、スティーブ・クリステンセンが女になりたがっているなどとありうべからざることだ。おれはつねに強く、勝者で、男でなければならなかった。
だが、おれの性癖はおれを裏切る。おれの見る夢は少しも男らしくない。魔王を退治するより、魔王にさらわれて犯される姫君になりたいのだ。
おれという人間はまったく不気味でいびつで手におえない。
「メアリ」
唐突に暗闇のなかに声がした。サイモンの声だ。
「……はい」
「こっちへ来い」
行こうとしたとたん、手が引っ張られた。手錠があった。
「そうか。しょうがないな」
暗がりのなかを巨漢の影が近づいてくる。サイモンがすぐそばに来てかがんだ。彼はおれの手錠を手際よくはずした。
「来い」
彼は立ち上がり、おれの背を軽くおした。二階へあがる。おれの寝室――主人の寝室の前に来た。
「入んな」
中はライトがまだついていた。主人はガウン姿で机の小型ノートパソコンに向かっている。おれのではない。彼の持ち物だ。
「何、洟たらしてるんだ」
男はこちらを見もしないのに、おれの泣き顔に気づいていた。
「すみません」
「洟をかめ。そこの果物でもかじって待ってろ。すぐ終わる」
声はやさしい。だが、昼のことでおれはすっかりしょげていた。泣きそうで夕食が飲み込めなかったのだ。
男はまもなくノートパソコンを閉じて、カバンに仕舞った。おれは言われた命令を無視しかけていたことを思い出し、あわてて洟をかんだ。
「娘さん、何泣いてるんだ」
洟をかむ脇に来て、耳にかすめるようなキスをする。
おれは警戒した。この男の気分はころころ変わる。
「言えよ。何を泣いてるんだ」
男は背後から、おれの腹に腕をまわしてきた。耳元に今度ははっきりとキスをする。首筋に口づける。
「は、恥ずかしいからです」
おれはなるべくビジネスライクな声を出そうとした。
「あんなことを自分の家の庭でしてしまって。恥ずかしくて」
「だから、メソメソ泣いてるのか」
手が腰をなぞり、スカートの縁におりる。内股に触れられ、おれは身をすくめた。
「かわいかったぜ」
男がクスリとわらう。おれも冷笑した。また涙がしたたった。
「淫らで、無邪気で、魔的で、純粋で、華々しくて。おれもイキそうだったよ。おまえはやっぱりセクシーだ」
内股の指がパンティの縁をなぞる。だが、触れて欲しいところには触れない。
「もうやめてください」おれは打ちひしがれて頼んだ。「ぼくをもてあそばないで。本当につらいんです」
「おまえにノーを言う権利はない」
手がパンティをずりおろす。
おれは男に抱きかかえられ、下着をおろされながら、立ち尽くした。
くやしかった。こんなになぶられても、まだ期待している。体が彼の体温をを思ってわなないている。
「メアリ、靴をぬいで」
あとは言われるままだった。靴をぬいで。じっとして。手を前に。
主人はおれの足からパンティをぬくと、ストッキングも脱がせた。そのストッキングでおれの両手首をしばる。もうひとつのストッキングでさるぐつわをかませた。
そしていきなり、彼はおれを両腕に抱きかかえた。
おどろいた。
おれと彼は同じぐらいの丈だが、おれのほうが重い。だが、彼はスカーレットをかかえるように優雅に抱いてみせた。
「力を入れるな。体をおれに預けろ」
おれはなかなか言われたとおりにできなかった。だが、彼はいつまででも待っている。抱きかかえながら、部屋をゆっくり歩き出した。
「メアリ。ご主人さまの命令だ。力を抜いて、首をおれの胸に。おれを椅子だと思え。そう」
ひどく滑稽だ。こんなでかい自分が貼りついてる絵は。
だが、彼の肩に顔をつけた時、ほんの一瞬、酔った。自分が無力で、誰かにもたれてもいいのだ、と思えた。
「いい子だ」
彼はゆっくりとおれをベッドにおろした。すぐに上に覆い被さる。彼はおれの首をとり、含みわらった。
「さあ、犯すよ。お嬢さん、逃げてごらん」
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