ディオニュシア祭 第6話


 主人の腕は強かった。
 足も重い。おれははじめ遠慮がちに抗った。だが、彼の腕にゆるぎなさに本気でたじろいだ。肘をつかい、身をよじった。

 手を縛られてはいるものの、おれの重くて頑丈な足はシーツに貼り付けられて動けず、鍛えた肩も片手でおさえられた。動けない。おれは自分より軽い男を跳ね飛ばせない。あがけばあがくほど相手の優位を思い知らされる。

 彼は笑いながら、おれのからだを封じ、キスした。手で内股を愛撫する。もみくちゃになったドレスはまくれあがり、陰部が露出してしまっている。

 キスされ、ペニスを手で包まれた時、おれは気が遠くなりかけた。

 ――この男はおれより強い。おれのご主人さまだ。

 おれのなかの何かが折れた。これまで、メイド服もご主人さま呼ばわりも気恥ずかしく、ためらいがあった。いいつけに従いながら、自分が傍らから嘲笑していた。

 だが、おれはこの男に逆らえない。生き物として、おれは弱者。ヒエラルキーの下なのだ。

 強者はおれの肉体に君臨する。おれの足をひらき、好きなようになぶっていい。

 主人はおれの耳を甘噛みした。首にやんわりと歯をたてる。そうしながら、足の間に指をのばし、肛門に触れた。

 からだにふるえが走る。尾底骨がこわばり、さるぐつわされた口から喘ぎが漏れた。

「!」

 指が肉をおしわけてもぐりこんでくる。いつ潤滑油をつけたのか、男の指はなめらかに、強く突き進んできた。

 指でえぐりながら、ヘイゼルの目が見下ろしている。とても見返せない。おれは身をすくめ、顔をそむけた。 

 だが、頬の上の視線を痛いほど感じた。指が足され、動き、熱を呼ぶ。熱に犯されていく。喘ぎ、ばかげた声をあげそうになるのを、冷たいヘイゼルの目が監視している。

 目に涙がにじんだ。愛撫の狂おしさと恥ずかしさ。耐えられない甘美さに、おれはなにかを手放した。

「きれいだ」

 男は目のふちにキスした。キスは首に鎖骨におりた。彼の手が首のうしろのボタンをはずす。ドレスを肩からぬがせ、胸に口づけた。左の乳首を吸いながら、片手で右の胸を愛撫する。そうしながら、アヌスの愛撫もやめない。

 せつなさに、おれは首をふった。自分で触れてもそっけない乳首がこの男の唇にかかると、骨までとろかしてしまう。男はわざと音をたてて乳首を吸った。恥ずかしさにまた涙がわく。

 ――おれは女だ。主人に操を奪われる非力な召使女だ。

 くらみそうだった。性的な快楽とは別のものが脳を襲っていた。なにかが割れる。砕け散る。

 おれは呻き、すすり泣いた。さるぐつわのなかで哀訴し、懇願した。ペニスは張り詰め、火を吹きそうだった。もう少しの刺激にも耐えられない。

 彼が乳首に歯をたてた時だった。電気に触れたように、下腹が痙攣した。ペニスははじけ、精が主人の腹を打った。解放の快楽が一瞬からだを揺るがし、満たし、潮のように引いていく。

「メアリ、いけない子だ」

 主人は笑い、おれの目をのぞきこんだ。おれはうろたえ、目を伏せた。先に達したことが恥ずかしく、叱られることが甘美でもあった。

(ご主人様。お許しください)

「後悔するよ。さあ、うつぶせになって」

 おれが身じろぎする前に主人はおれを軽くひっくりかえした。縛られた手が胸の下につぶれる。主人はおれの腰をひきあげると、尻に熱いものをおしつけた。

(ああ!)

 強くそれが押し入ってくる。尻の穴が無理やりひろげられ、内臓がおされる。その大きさにおれは狼狽した。

 熱い大きなものに杭打たれている。おれは犯されている。からだをおしひしがれている。

 ゆっくりとそれが動き出した。その痛みと甘さにからだがおののき、ふるえた。快楽は脊髄から脳へと走る。

「ううっ」

 さるぐつわの中で叫んでいた。足のすべての筋がこわばっている。疲れ果てたペニスがまた火に包まれている。主人は片手にそのペニスをつかみ、しごいた。

 おれは悲鳴をあげた。からだが破裂する。魂が飛び出してしまいそうだ。



三日目




「だいぶ、腰つきが色っぽくなってきたじゃねえか」

 サイモンに抱きすくめられ、おれは飛び上がりかけた。スカートの中に手を入れてくる。

「や、やめてください」

 おれは本気で頼んだ。先から腹が痛くてしかたがない。トイレに駆け込むところだったのだ。

「気持ちいいんだろう? 先生。アレがくわえたくてしょうがないんだろう」

 尻をなでられ、冷や汗が出る。「放してください」

「どこへ行こうってんだ」

「トイレです」

 だめだ、とサイモンはペニスをつかんだ。痛みと腸の痙攣に身がすくむ。

「床の掃除を先にやれ」

「でも」

「今夜は客が来るんだ。さっさときれいにしろ」

 いくら頼んでも、サイモンはおれを部屋から出そうとしなかった。あきらかになぶっている。おれはしかたなく床に這った。

「さっさとやれ。スタンガンでちんぽ灼かれたいのか」

 脂汗が出る。口からだらだら生唾がわいた。痛みに腹をおさえてちぢこまると、サイモンが尻を蹴る。
 尻は緊張のあまり痙攣しそうだった。

「もうだめです。行かせてください」

 ひととおり部屋を拭うと、おれはサイモンにすがった。サイモンはおれを引き剥がし、わざとらしく部屋をみまわした。

「そうだな。部屋はきれいになったが、華やかさにかけるな」

 花がいる、という。おれは泣きそうになった。つらくて髪が逆立ちそうだった。

「そいつで、花を予約しな」

 サイモンは電話台の方へあごをしゃくった。「さっさとしなよ。グズグズしていると間に合わなくなるぜ」

 尻の筋肉に渾身の力をこめ、おれは背の高い電話台に前に近づいた。

 花の予約などしたことがない。電話帳で探す間に、気が遠くなりかけた。歯の根が鳴る。ようやく、花屋に電話をかける。

『クイーンズ・フラワー』

「クリステンセンだ」

『やあ――、ジョージ?』

「いや。ジョージは休暇だ。今日、パーティー用の花をたのむ」

『どんなのにします? パーティーはどんな』

 なんでもいい。いいから。

「まかす……」

『パーティーはどんな感じなんです? 内輪の? それともお客さんが大勢いらっしゃるんですか。置き場所は玄関? リビング? ダイニング?』

「なんでもいい!――」

 おれはかすかに悲鳴をあげた。夢中で受話器を置いていた。
 尻は破裂してしまった。無様な音をたてながら、暖かいものが噴き出した。それは尻にはりつき、小さな下着の脇から流れつたった。なお、爆発はつづき、音をたて、臭気をたちのぼらせる。下着は生暖かいものにふくれ、重く垂れ下がった。

 喪失感といたたまれなさに、おれは立ち尽くした。ぼんやりしてしまい、どうしたらいいのかわからなかった。

「ケツのしまりが悪いからだよ。牝犬」

 サイモンがゲラゲラわらった。この悪党ははじめからおれにトイレに行かせる気などなかったのだ。

「どうした」

 部屋に主人が入ってきた。おれは凍りついた。我知らず身をすくめると、また足にぬるい便がしたたった。

「くさいな。――どうした、これは」

「この馬鹿女がもらしたんです。花屋に電話をかけろと言ったら、もしもし、なんていいながらひり散らしやがって。お客さまが来るってのにたまりませんよ」

 主人はおれに近づいた。おれはこわばり、身動きできなかった。主人が背後にたつ。スカートに手をかけ、まくりあげる。

 おれは拳をにぎり、ふるえた。ヘイゼルの目が細くなっているのがわかる。

(なんてことを――なんてことを)

 主人はつまらなそうに言った。

「粗相した子にはおしおきがいるな」



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