女はほかにもいくつか道具を頼んだ。

　主人がサイモンを呼び、そろえさせる。サイモンが持ってくると、女はおれの前に立ちはだかった。

「少しは口の利き方をおぼえた？」

「――はい、奥様」

「おまえの名前は」

「……メアリです」

「おまえの仕事は」

「ハウスキーピング」

「具体的に何をしているの？」

「野菜を洗ったり、皿を並べたり。ベッドメイキングをしています」

「夜は」

「？」

「旦那さまはおまえをお召しになるの？」

　昨夜の激しいセックスを思い出し、おれは顔を火照らせた。

「……はい」

　女の唇が意地悪くゆがむ。

「だから思い上がっているのね」

「いいえ、奥様」

「ご主人さまの寵愛があれば、床をトイレにしても怒られないと思ったんでしょ」

　おれはまた泣きそうになり、唇をかんだ。

「どこ見ているのよ」

「はい、――いいえ、いいえ、奥様」

「床をトイレにしてはいないって言うの？」

「い、いいえ、奥様」

「この床のシミは何」

　咽喉が細く締まった。男同士ならわけない言葉が、婦人の前では言えない。

「なんなの」

「――便です」

「医学の話をしているの？　おまえのお母さんは『便が出たらよく拭きなさい』という風に話すのかしら」

　おれは喘いだ。なんて女だ。

「クソ――うんちです」

「そうよ、メアリ。どうしてうんちがここに落ちているのかしら」

　青い眼がおかしそうに見つめる。彼女はこれを言わせたくて、問答をしていたのだ。おれは消え入りそうな声で言った。

「――わたしがしてしまったからです」

　まあ、メアリ！　と女は素っ頓狂な声をあげた。

「なんてことなの。こんなところで、うんちをしてしまうなんて。おまえはいくつ」

「さ、三十五です」

「三十五にもなって、我慢ができないなんて。信じられないわ。見せてちょうだい」

　彼女は仲間からハサミを受け取ると、いきなりおれのスカートを切り出した。ハサミはスカートの前を大きく切り取っていく。おれはたまらず首をそむけた。

「いやだ。この子、本当にこんなにもらして」

　彼女は甲高い声で笑った。後ろの男たちも苦笑する。

「すごいにおいだな」

「パンツの中はどうなってる」

　待って、と女がハサミをおく。手術用のぴったりした手袋をはめると、嬉々としておれの前に立った。「かわいいパンティね」

　おれはぎくりとした。手が濡れた布ごしにペニスに触れている。会陰ごとつかみ、揉む。揉まれるたびに、やわらかい便が性器にまとわりつく。

「くっ」

　湿った音がたち、屈辱にからだが細かに痙攣した。頭のなかが灼ききられるようだった。

「ずいぶんもらしちゃったのね。気持ちが悪いでしょ」

　彼女は揉むのをやめると、おもむろにガーターをはずした。パンティのゴムに手をかける。

　おれは思わず叫んだ。「いやだ」叫び、暴れていた。「やめろ。おれに触るな。あっちにいけ。いや、いやだ」

「恥ずかしがることはないわ」

　女は意に介さず、パンティをずりおろした。はっきりと臭気がたちのぼった。

「まあ、きたない」彼女は笑った。「よくこんなもの穿いていられたわね」

「見るな。いやだ。向こうへ行け」おれは狼狽し、身をよじってわめいた。太ももに冷たいものがあたる。女はまたハサミをつかい、おれの足から汚い下着を剥ぎ取っていた。

「見なさい、これを。これはなに？」

「おれに近寄るな。殺してやる」

　メアリ！　と主人の声が飛んだ。

「お客に無礼な口をきくな。また尻をたたかれたいのか」

　主人の声は即座におれの頭からノルアドレナリンを抜き去ってしまった。おれはたまらず泣きだした。

「ご主人さま。おゆるし、お許しください。もうやめて。ぼくをもう放してください」

　主人は苛立ったためいきをついた。「おれに恥をかかすのか」

「お許し……、お許しください」

　女が興ざめたように主人を見る。

「わたしにあそばせてよ。この牝犬をひいひい言わせてやりたいんだから」

　主人は片手をあげ、つづけるようにうながした。
　女はおれに向き直った。

「今度、身のほどをわきまえない口をきいたら、こいつをその口につっこむわよ。それともハサミで何かちょんぎったらいいかしら。あんたのクリトリス、大きすぎるみたいだし」

　おれはすすりあげた。こんな女の言うことを聞くのはいやだ。だが、おれの反抗は主人の失点になるのだ。主人にがっかりされたくはない。

「とりあえずおまえの口はふさいでおきましょう」

　彼女は言うなり、テーブルへ戻った。何かをとって、帰ってくる。骨つきソーセージだった。それをおれの口に無理やりつっこむ。

「噛むんじゃないわよ。いつもしているみたいに銜えるの」

　口いっぱいソーセージをくわえ込まされる。顔のすぐ下から便臭がする。おれはまたすすり泣いた。

　――もう、どうにでもしろ。

　そして、早く帰ってくれ。

　股間がぬぐわれる。女はいつのまにか濡れタオルでおれの尻を拭いていた。

「かわいそうに。泣くんじゃないのよ。ママがきれいきれいにしてあげますからね」

　女はペニスや陰毛にこびりついた便を手際よく拭い取った。そして、なにか瓶を取り出した。男たちにふりむく。

「うちの子、これが好きなの。変わってるでしょ」

　そう言って、冷たいものをおれの尻に塗りつけた。ペニスに、睾丸に、会陰にアヌスにべっとり塗りつける。冷たいがなにかちくちくする。

　しだいに下肢があたたかくなってきた。皮膚の下をなにかが這いまわっている。むずがゆいようなじれったさがある。

　息が苦しくなってきた。陰部が熱く火照っている。無視できないほど昂ぶってしまっている。　

「どうしたの。顔が赤いわ」

　女はすまして言う。「それにメアリ。あなたのクリトリスが大変なことになっていてよ」

　ペニスは完全に立ち上がって熱を発していた。ペニスが腫れあがっている。乳首が、陰嚢がアヌスが、触れて欲しくて悶えていた。

「いやらしい子。誰がおまえになんか触るもんですか。おまえみたいな汚い牝犬、誰がかわいがると思うの。恥を知りなさい」

　彼女はふりむき、タフィ、と呼んだ。すぐあのマルチーズがすっ飛んできた。

「おふたり、そこの椅子をとって」

　がたいのいい男のほうがテーブルから椅子を運んできた。それがおれの股間の下におかれる。彼女は椅子の上にマルチーズをのせた。

「おまえみたいな牝犬。犬にやってもらいなさい」