第4話

「オムツをするなら、きちんと便を拭け!」

 医者は犬の股間を見て、腹をたてた。犬の股は赤いカリフラワーのように腫れていた。陰毛の汚れをきちんと拭かなかったため、犬が痒がってオムツ越しに掻いていたのだ。
 医者は陰毛を剃り落とすと、ぬり薬を塗り、

「便器で排泄させるトレーニングをしたらどうだ。指だって、きちんとリハビリすれば、使えるようになるんだ」

 わたしがそこまでやらなければいけないのだろうか。
 だが、蒸し返すとまた説教される気がする。わたしは葉巻の口を切り、

「下痢がやまないんだ。悪い病気にでもかかってんじゃないかな」

「検便した。心配ない」

「じゃなんだ」

「神経的なもんだ」

「?」

「誰かが小言ばかり言うからだ」

「言わんよ」

 医者はうるさげに手を振った。

「環境が変わったからだ。ストレス。こいつは苛められてたんだ。また新しいご主人様にいじめられるんじゃないかと思って、怖がってんだ」

 慣れたら治る、と薬のチューブを渡した。

「ステロイドだ。あまり手につけるな」

「いっそ先生のところで預かるってわけにはいかないかな」

「わしのかわりに患者をみてくれるなら、代わってやるよ」

「せめて、パートタイムで看護師でも派遣するとか」

 医者はふむ、と鼻息をついた。

「わしもそれは考えた。だが、この傷がな」

 犬のからだには縦横に紫色の鞭傷が走っている。皮膚をつぶさに調べれば、いたるところに火傷や古傷がケロイドを残しているのがわかる。
 事情を知らない看護師が見たら、仰天しておれを告訴するだろう。

「辛抱しろ。あまり長くなるようなら、口のかたいヘルパーを探してやる」

 だが、わたしはもう辛抱ならなかった。自力でヘルパーを探しはじめた。




 口のかたい友だちAの高級アパートをたずねると、彼はいそいそとガウン姿で出迎えた。

「待ってたよ!」

 挨拶の間もなく、するりとガウンを落として裸になる。

「あ、ロジャー、今日は話が」

「そんなのあとあと」

 ロジャーはせわしなくわたしのベルトを開き、ズボンとパンツを引きおろした。

「ちょ、ちょっと。ここ玄関」

「何ヶ月放っておくんだよ。浮気ばっかりして――」

「!」

 ペニスに喰らいつこうとしている。

「わかった、わかりました!」

 わたしはズボンをあげ、ロジャーを抱き上げて寝室へ移動した。

 ロジャーは敏腕弁護士だ。法廷では神経質そうな眼鏡をかけ、怜悧な頭脳と詭弁とポーカーフェイスで、検察をふるえあがらせている。

 だが、蟲惑的な尻をしていた。小さな尻には野性的なパンチがあった。高級スーツを脱ぐと、跳ねんばかりにはずんだ丸い尻。そして、ねっとりと芳醇なアヌスがあった。
 その小さい口は待ちかねて期待にわくわく踊っていた。

「早く、早く!」

 ロジャーははしゃいで尻を突き出している。わたしは服を脱ぎ捨てると飛びかかった。

 引き締まった細身をかっさらい、背から抱え込むと、あごをとらえて口づける。そうしながら、彼の股間に手をいれ、ペニスをたぐる。それはすでに焼き上がり、とろとろの甘露に覆われていた。
 わたしは露を指にからませた。濡れた指で会陰をたどり、小さいアヌスをえぐった。

「んっ」

 ロジャーの眉が悩ましげにゆがむ。

「いい、そんなこと。ラロ。すぐほしいんだ」

「そういうわけにはいかんでしょ」

 欲しがりのわりに彼のアヌスは細いのだ。ほぐさないと怪我をさせてしまう。
 かたいスジをもむように入り口をじっくり愛撫。中指の関節をもぐらせ、まるい敏感な器官をムードたっぷりに撫で上げる。

「アアッ、や、だめだ、って――」

 早く入れろ、と暴れるのを無理やり胸に抱え、キスで封じる。
 あがく相手を押さえつけるのは愉しい。知らんぷりしてキスしながら指イタズラをつづけると、ロジャーは身をくねらせ、鼻をならし、暴れ、もがいた。

「く、ン、んふ」

 しっとりとそのからだが汗にぬれてくる。においたつように熟れてくる。火の上でバターが溶けるようだ。
 ロジャーは苦しげに足をバタつかせた。

「ラロ! もうやって! 死にそうだ」

「アイサー」

 わたしのほうもこんがり焼き上がっていた。ロジャーをうつぶせにすると、尻をひらき、大騒ぎしているわが身を沈めた。

 灼けた狭い穴にむりやり入っていく。ペニスを絞られるようだ。快楽の戦慄が駆け上がり、奥歯が振れる。
 ロジャーも身をこわばらせ、狼狽したようにカタカタ痙攣した。

「あ、ああ……」

 ロジャーのからだが重く緩んでいく。わたしは面食らった。もうイってしまったらしい。

「ちょっと早いんじゃない?」

「意地悪、するからだよ」

 ロジャーは満足げにあえぎ、ぬけぬけと言った。「もういいよ。おにいさん。離れて」

「そうは行くか」

 わたしは笑い、口の悪い恋人を懲らしめた。
 三度ほど、再会のセックスを楽しむと、ロジャーはようやく眼鏡をかけた。

「で、またなんかしくじったのかい?」

 いや、とわたしは息を整えた。こちらはそれほど頭の切り替えが早くない。

「ええと、うちに若い男の子がいるんだが」

 またか、と彼は苦笑した。

「いや、そういうのじゃない。――実は、その子の面倒を見てほしいんだ」

「何をやらかした、その子は」

「は?」

「窃盗か?」

「いや、そうじゃなくて」

「殺しか? 自白はしたのか」

 根本的な誤解があるようだ。わたしは彼を黙らせ、さきに事情を説明した。
 話を理解すると、ロジャーは目をしばたいた。

「オムツ替え?」

「オムツ替えとか、ゴハン作りとかね」

「ナースとかに頼んだほうがいいんじゃないの? 少なくとも弁護士の仕事じゃないな」

 それはわかっている。仕事をしてくれというのではない。助けてほしいのだ。だが、この男はいよいよキョトンとして、

「きみがなんかの嫌疑をかけられてるならできることもあるけど、ゴハンったって、ぼくは前レンジで卵を破裂させてからはレンジもあんまり――」

 わたしはあきらめ、口のかたい友だちBを当たった。



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