第6話

〔イアン〕

「デクリオン」

 プリンキピア(軍団本営)のロビーに入ると、鋭く呼び止められた。
 パンテオンの上級スタッフだ。

「あんたの言ったとおりになってしまいましたよ」

「どこまでやったんです。具体的には」

 彼はおれを長椅子に座らせて話した。

 フレディは仲間のスタッフをひとり殴りつけ、トイレに隠した。
 その後、リネンのワゴンを押して、メルの部屋に侵入しようとしたが、ウエリテス兵の詰問を受け、乱闘。御用となった。

「ばけものみたいでしたよ。ゴム弾なんかききゃしない。テイザーもはじきとばしちまうし」

 フレディはリネンのワゴンを振り回し、三人のウエリテス兵を跳ね飛ばした。機転を利かせたスタッフが消火器で、消化剤をふりまいたが、目をやられても暴れ続けたという。

 結局、二小隊のウエリテス兵が盾で押しつぶすようにして押さえ、電流でマヒさせた。
 おれは暗澹とした。

「とにかく、侵入は防いだんですね」

「え?」

「メルには触れなかった」

「はあ。しかし」

 スタッフは渋い顔をした。

「ワゴンの中にリュックサックを仕込んでたんです。どうみても」

「しかし、未遂だ」

 おれは彼に言った。

「うちの班にも、むかし犬を連れ出そうとした馬鹿者がいました。そいつはパトリキの口ききで、釈放できた。死人が出ていないなら可能性はあります。あきらめないでください」

「いや、しかし――」

 彼は弱気だった。下級スタッフのために面倒にまきこまれたくないのだ。
 おれは声を厳しくした。

「フレディが銃殺にでもなったら、パンテオンはおしまいですよ! 赤字の上、失態つづき! 上はパンテオンの存在自体を考え直すでしょうな」




〔外科部長〕

 書類のなかに、知らない人間からの手紙があった。
 手書きだったので、開けてみた。

 げかぶちょうどの
 
 おれはふれでい・ぶるけんず。
 おれがしっぱいして、じゅうさつになったら、おれのしたいからてとあしをきってください。
 そして、める・うどすとくにいしょくしてください。おねがいします。
 おれはめるとうまにのる。
 



〔ルイス〕;アクトーレス 第五デクリア所属

 イアンが戻ってきたのは夜の一時近かった。

「おや、みなさん、おそろいで」

 オフィスにはおれとアキラ、ラインハルトが彼の帰りを待っていた。
 ラインハルトが聞いた。

「で、どう?」

「まだ捜査中。ヤヌスのみなさんは、いつもどおり張り切って、フレディの背後にヴィラを覆す陰謀がないか調べてます。飽きるまでしばらくかかりそうだな」

「具体的に、――銃殺になりそう?」

「ならんよ」

 イアンはそっけなく言った。

「未遂だ。被害はウエリテス兵がコブを作ったことぐらいだ。犬にできるタマでもないし、放逐で十分だろ」

「十分だろって」

 それはあんたの、とラインハルトがいいかけた時、アキラがさえぎった。

「じゃ、そっちのほうはあなたにまかせましょう。ここでグダグダ言っててもしょうがない。イアン、われわれも話があるんです。メル・ウッドストックですが、あれ、売れません」

 イアンが見返した。

「なんでだ」

「売れるもんなら、もうとっくにいないでしょうよ。とにかく売れないんです。もう無理」

 イアンの肩がふくらんだように見えた。肘が不穏に浮いていた。

(アキラ)

 おれはおろおろした。イアンは今、ふつうじゃないぞ。
 だが、アキラはすまして言った。

「だから、買うんですよ。われわれで」

「金は!」

「作るんです」

 当然でしょ、と鼻息荒く言った。



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