第9話 |
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〔アキラ〕 元旦。 福袋の売り出しがはじまった。 売り場は広場に面したヴェヌス神殿だ。ローマ風に書かれた『FUKUBUKURO』の看板を見て、日本人客が入ってきているらしい。 『すごいぞ。大盛況』 売り場のルイスから、興奮した報告が入った。 『みんな、300万の福袋、ぼんぼん買っていくんだ。贔屓のアクトーレスのが出てこないって』 「ま、ここのセレブにとっちゃ、300万の福袋なんてカード付きチョコみたいなもんだからな」 『わお、あの人、十個目! 神様』 「ガンガン売れ。目標5億5千5百万だぞ」 おれは満足して携帯を切った。 メルの値段は五億。ヴィラへのショバ代が儲けの一割。 高いとはいえない。メルが正当な飼い犬になれば、タダで手術を受けさせるのだから。 トルソーに手足をつけられるなんて、すごいことだ。 きっと、みんなもどこか救われてる。 『こんなことして、罪滅ぼししてるつもりか』 そう言って、参加しないやつもいたが、メルが歩きだせば、そいつだってどこか傷がふさがるのだ。 今朝、ルイスと初日の出を拝んだ。 今年は明るい年になりそうだ。 〔ラインハルト〕 「おそろしい数字が出てしまった」 家令がプリントを手に、青い顔をあげた。 ルイスが不安そうに聞く。 「いかなかったのか、五億」 ほかのデクリアのやつが、うそだろ、と呻く。 家令はあえぐように言った。 「七十四億、二千五百万」 一瞬おいて、悲鳴のような歓声が噴き上がった。みな、豆のように飛び上がって笑った。 七十四億! 金持ちってやつは! 「そうだよ。おかしいと思ってたんだ。売れてたからよ!」 「すげえな、日本人は」 「日本人以外にもけっこう買ってたよ」 福袋を知らない国の客も楽しんでいたようだ。 トルソーを売るのは渋っていた家令たちも、楽しいことの宣伝はきちんとやってくれたのだ。 アキラはほっとした顔で言った。 「このうち、七億四千万はヴィラに支払う。残り六六億から、メルの代金と解放後の医療費、生活費を出す」 おれはわめいた。 「なに、おれたちにピザも食べさせてくれないわけ?」 「ピザは――パブに電話しろ。打ち上げだ! おれのおごりだ!」 男たちが歓呼の声をあげる。 いそいそと移動する者。仲間にせわしく携帯で呼びかける者。どの顔も喜びに火照っていた。 大勢のはたらきが成果をむすんだ。犬が殺されずに済んだ。彼らの何かが壊されずにすんだのだ。 その時、イアンがオフィスに入ってきた。 「イアン! 金たまったぜ!」 おしゃべりニーノがすぐにビッグニュースをばらした。 「おお、それはすごいな」 イアンは簡単に受け流し、晴れやかな笑顔で言った。 「フレディの処分が決まった。五十日の強制労働! だけ!」 完璧だ! 試合で勝ったように、みんながイアンに抱きついた。 「あとは、手伝ってくれるお客様を探すだけですね」 家令がゆるんだ顔で笑った。 「いい方がいます。わたしがお話しさせていただきましょう」 |
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