第12話


 リントは犬の変化にじわりと愉悦をおぼえた。

 クロフォードの息が荒い。灰色の眼は熱に潤み、せわしく瞬いていた。彼の落ち着きがうしなわれている。

 強い薬だった。
 夢中でかきむしりたいはずだ。
 だが、クロフォードの腕は背に拘束している。背後から、ボディガードが抱えこみ、彼の両膝の裏を掴んで、開いていた。

「あ……」

 クロフォードが苦しげに首をそむけた。
 ペニスから透明な蜜がしたたり落ちる。ふるえがその肌を走った。

「いやらしいね。クロフォード。お尻の穴を見せびらかしてよがっているのかい。きみが」

 人差し指をその会陰に伸ばす。爪の先が肛門にふれると、クロフォードはビクリと身を跳ねた。
 指が離れ、一瞬、クロフォードの目が揺れる。
 リントはそのせつなげな表情を楽しんだ。

 じらし、肛門から指をそらす。屹立したペニスを避け、陰毛の間に指を這わせ、またするりとおりて、肛門の縁を撫でる。
 肛門の粘膜がひくひくと哀願している。
 クロフォードの形のよい眉が苦しげにしかめられていた。

「欲しいのかい。牝犬」

 クロフォードは絶え入るような声で呟いた。「ハイ……ご主人様」

「ご主人様、か」

 クロフォードは眼を閉じた。

 からだは矢のようにペニスを欲しがっていた。アナルは小さな怪物のように息づき、リントの指さえ欲しがって泣いている。

「アアッ」

 ぬるりと指が入った途端、甘い痺れが走る。
 クロフォードは悶えた。もっと欲しがって、尻を揺らしていた。

「はしたないよ、きみ」リントがくすくす笑い、餓えた腸壁ををなぶった。「あの無愛想はどうした? きみはマシーンだろう? きみは0と1で出来ていたんじゃないのか」

「アッ――あっ、ン、ハ――アアッ!」

 指が動くごとに、ゼリーが潰れ、卑猥な音をたてる。後頭部の髪が逆立った。ペニスの裏まで指を突き入れられ、目の前が白くなる。生理的な涙がにじむ。

 だが、理性はひどく乾いていた。男に膝を開かれ、恥部をさらしながら、感情は凍って動かなかった。

「きみ、この牝犬をどう思う?」

 リントはクロフォードを抱えたボディガードにたずねた。ボディガードが答えぬうちに、

「きみの腕の中でよがり狂っているこの変態。むかしはこんなにかわいくなかった。――クロフォード。あの時、自分がなんて言ったか覚えてるかね? ――ミスター・リント。お話はけっこうです。数字は? ――フロアの全員の前で、数字は? まったく、一生忘れない。――このわたしに!」

「アアッ――ご主人様、おねがいです。もう、ください」

 リントは指を抜いた。

「もっと、本気で欲しがれ」

 唐突にボディガードに下ろすよう命じた。

「クロフォード。尻ふりダンスだ。ヴィラで習ったろう。本気でわたしを欲しがってみろ」

 起き上がろうとするクロフォードの頭を押さえる。クロフォードはしかたなく後ろを向き、額を床につけた。這いつくばり、尻を高くあげる。左右にふり、腰を舞わせた。

「黙ってないで言うことがあるだろう!」

「おねがいです。ご主人様、牝犬のお尻にください」

「ああ? 聞こえないな!」

「牝犬のお尻に、は、早く、ご主人様のペニスをください」

「もっとよがれ! 欲しいんだろう? 鳴き声をあげろ!」

 クロフォードはあえぎ、尻をふった。尻をおどらせ、切なげな声を出す。

「ください――ご主人様、アアッ――早く」

 リントは高く哄笑した。

「きみ、きみ、見てくれ」

 笑いに声を引き攣らせ、「このザマ! あのクロフォードが、男にぶちこまれたくて尻振ってるぞ! あのクロフォードが」

 せわしなくベルトをはずす音がする。布の擦れる音がしたと思うと、いきなりビシリと何かが尻にはじけた。

「ほら、お尻にくれてやろう」

 リントがまた弾けるように笑った。彼の手にはベルトがあった。 

「なんだ、その目は! ビッチ、よろこべ。うれしがって、ケツを振れ」

 尻に縦横にベルトが弾け飛ぶ。皮膚が切り裂けるような痛みが突き抜ける。痛みはしだいに蓄積し、腰骨に響いた。
 それでもペニスは硬く屹立したままでいた。尻をひりつかせながら、刺激を欲っして揺れている。

「クロフォード、ぶたれておっ勃てているのか」

 リントが笑いながら打つ。
 クロフォードは黙って奥歯を噛み締めた。石のようにこわばり、痛みを噛み殺す。

(フランシス・クロフォード、おまえは今死骸だ)

 クロフォードは頭の片隅でおもった。
 今は死骸に徹することだ。正気を明け渡したらゲームに負ける。今は意識を地中深くに沈めて隠れる時だ。

(こんなことはなんでもない。おれにはなんでもない)





『じつにそそる犬だ』

『ノー。ノー! おれにさわるな』

『おまえを作り変えてやる』

『ここはどこなんだ!』

『冷たい目だ』

『この子は化けますよ』

『こんなにして――よほど欲しいのか』

『やめてください。おねがいです――』

『素晴らしい。とても色っぽいよ』

『それが中庭のマナーだ』

『売るもんか。おまえを』

『ご主人様が死んだ――?』

『泣くしかない。人は死ぬ。しかたがない』

『やあ、坊や。わたしがおまえの新しい主人だ』

 クロフォードは息をのんだ。
 部屋には誰もいなかった。いつもの自分の部屋だ。

「ク」

 体中が赤剥けになったように痛んだ。リントにさんざん犯され、その後、またベルトで打たれた。ボロボロになって肌を、今度はドン・ニコラが犯した。
 肛門がただれて閉まらない気がする。熱のせいか鳥肌がたっていた。

(――寒い)

 頭にリントの哄笑がしみついている。
 デスクの前で得意げにクロフォードのやり方を批判するリント。いつも自分の声に酔い、フロアに向かい、演説していた。一瞬にしてこわばった笑い顔。赤く怒気に満ちた眼。

 ――ビッチ! わたしに犯られてうれしいか!

 にわかに骨が透けるように凍った。水が鼻をつたって降りてくる。 クロフォードは感情の渦をおさえた。

(――リカータ家だ)

 あえて笑おうとした。

(そうだ。ミケーレが言っていた。リカータ家はカステリーニ・ファミリーの敵だ。彼らはドン・ニコラを殺したがっている。彼らだ)

 涙が落ちたが、クロフォードは無視した。

(彼らと連絡を取ろう。情報だ。ドン・ニコラが一人になる瞬間を流す。彼らに始末させる。いや、幹部連中もいっしょに始末させたほうがいい)

 息がふるえた。

「さむい……」

 クロフォードはシーツを噛みしめてふるえた。

(ファビオ、ここは寒い。フロリダなのに、おれは凍りそうだよ)






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