リントは犬の変化にじわりと愉悦をおぼえた。
クロフォードの息が荒い。灰色の眼は熱に潤み、せわしく瞬いていた。彼の落ち着きがうしなわれている。
強い薬だった。
夢中でかきむしりたいはずだ。
だが、クロフォードの腕は背に拘束している。背後から、ボディガードが抱えこみ、彼の両膝の裏を掴んで、開いていた。
「あ……」
クロフォードが苦しげに首をそむけた。
ペニスから透明な蜜がしたたり落ちる。ふるえがその肌を走った。
「いやらしいね。クロフォード。お尻の穴を見せびらかしてよがっているのかい。きみが」
人差し指をその会陰に伸ばす。爪の先が肛門にふれると、クロフォードはビクリと身を跳ねた。
指が離れ、一瞬、クロフォードの目が揺れる。
リントはそのせつなげな表情を楽しんだ。
じらし、肛門から指をそらす。屹立したペニスを避け、陰毛の間に指を這わせ、またするりとおりて、肛門の縁を撫でる。
肛門の粘膜がひくひくと哀願している。
クロフォードの形のよい眉が苦しげにしかめられていた。
「欲しいのかい。牝犬」
クロフォードは絶え入るような声で呟いた。「ハイ……ご主人様」
「ご主人様、か」
クロフォードは眼を閉じた。
からだは矢のようにペニスを欲しがっていた。アナルは小さな怪物のように息づき、リントの指さえ欲しがって泣いている。
「アアッ」
ぬるりと指が入った途端、甘い痺れが走る。
クロフォードは悶えた。もっと欲しがって、尻を揺らしていた。
「はしたないよ、きみ」リントがくすくす笑い、餓えた腸壁ををなぶった。「あの無愛想はどうした? きみはマシーンだろう? きみは0と1で出来ていたんじゃないのか」
「アッ――あっ、ン、ハ――アアッ!」
指が動くごとに、ゼリーが潰れ、卑猥な音をたてる。後頭部の髪が逆立った。ペニスの裏まで指を突き入れられ、目の前が白くなる。生理的な涙がにじむ。
だが、理性はひどく乾いていた。男に膝を開かれ、恥部をさらしながら、感情は凍って動かなかった。
「きみ、この牝犬をどう思う?」
リントはクロフォードを抱えたボディガードにたずねた。ボディガードが答えぬうちに、
「きみの腕の中でよがり狂っているこの変態。むかしはこんなにかわいくなかった。――クロフォード。あの時、自分がなんて言ったか覚えてるかね? ――ミスター・リント。お話はけっこうです。数字は? ――フロアの全員の前で、数字は? まったく、一生忘れない。――このわたしに!」
「アアッ――ご主人様、おねがいです。もう、ください」
リントは指を抜いた。
「もっと、本気で欲しがれ」
唐突にボディガードに下ろすよう命じた。
「クロフォード。尻ふりダンスだ。ヴィラで習ったろう。本気でわたしを欲しがってみろ」
起き上がろうとするクロフォードの頭を押さえる。クロフォードはしかたなく後ろを向き、額を床につけた。這いつくばり、尻を高くあげる。左右にふり、腰を舞わせた。
「黙ってないで言うことがあるだろう!」
「おねがいです。ご主人様、牝犬のお尻にください」
「ああ? 聞こえないな!」
「牝犬のお尻に、は、早く、ご主人様のペニスをください」
「もっとよがれ! 欲しいんだろう? 鳴き声をあげろ!」
クロフォードはあえぎ、尻をふった。尻をおどらせ、切なげな声を出す。
「ください――ご主人様、アアッ――早く」
リントは高く哄笑した。
「きみ、きみ、見てくれ」
笑いに声を引き攣らせ、「このザマ! あのクロフォードが、男にぶちこまれたくて尻振ってるぞ! あのクロフォードが」
せわしなくベルトをはずす音がする。布の擦れる音がしたと思うと、いきなりビシリと何かが尻にはじけた。
「ほら、お尻にくれてやろう」
リントがまた弾けるように笑った。彼の手にはベルトがあった。
「なんだ、その目は! ビッチ、よろこべ。うれしがって、ケツを振れ」
尻に縦横にベルトが弾け飛ぶ。皮膚が切り裂けるような痛みが突き抜ける。痛みはしだいに蓄積し、腰骨に響いた。
それでもペニスは硬く屹立したままでいた。尻をひりつかせながら、刺激を欲っして揺れている。
「クロフォード、ぶたれておっ勃てているのか」
リントが笑いながら打つ。
クロフォードは黙って奥歯を噛み締めた。石のようにこわばり、痛みを噛み殺す。
(フランシス・クロフォード、おまえは今死骸だ)
クロフォードは頭の片隅でおもった。
今は死骸に徹することだ。正気を明け渡したらゲームに負ける。今は意識を地中深くに沈めて隠れる時だ。
(こんなことはなんでもない。おれにはなんでもない)
『じつにそそる犬だ』
『ノー。ノー! おれにさわるな』
『おまえを作り変えてやる』
『ここはどこなんだ!』
『冷たい目だ』
『この子は化けますよ』
『こんなにして――よほど欲しいのか』
『やめてください。おねがいです――』
『素晴らしい。とても色っぽいよ』
『それが中庭のマナーだ』
『売るもんか。おまえを』
『ご主人様が死んだ――?』
『泣くしかない。人は死ぬ。しかたがない』
『やあ、坊や。わたしがおまえの新しい主人だ』
クロフォードは息をのんだ。
部屋には誰もいなかった。いつもの自分の部屋だ。
「ク」
体中が赤剥けになったように痛んだ。リントにさんざん犯され、その後、またベルトで打たれた。ボロボロになって肌を、今度はドン・ニコラが犯した。
肛門がただれて閉まらない気がする。熱のせいか鳥肌がたっていた。
(――寒い)
頭にリントの哄笑がしみついている。
デスクの前で得意げにクロフォードのやり方を批判するリント。いつも自分の声に酔い、フロアに向かい、演説していた。一瞬にしてこわばった笑い顔。赤く怒気に満ちた眼。
――ビッチ! わたしに犯られてうれしいか!
にわかに骨が透けるように凍った。水が鼻をつたって降りてくる。 クロフォードは感情の渦をおさえた。
(――リカータ家だ)
あえて笑おうとした。
(そうだ。ミケーレが言っていた。リカータ家はカステリーニ・ファミリーの敵だ。彼らはドン・ニコラを殺したがっている。彼らだ)
涙が落ちたが、クロフォードは無視した。
(彼らと連絡を取ろう。情報だ。ドン・ニコラが一人になる瞬間を流す。彼らに始末させる。いや、幹部連中もいっしょに始末させたほうがいい)
息がふるえた。
「さむい……」
クロフォードはシーツを噛みしめてふるえた。
(ファビオ、ここは寒い。フロリダなのに、おれは凍りそうだよ)
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