第19話

 
 体を重ねあわせた途端、クロフォードは火の柱に打たれたように眩んだ。
 いとしい恋人のにおいに全身が沸き立つ。すべらかな感触、健やかな弾力に、彼の中の獣が熱く濡れた。

「ファビオ――」

 クロフォードは足をからませ、せつなく腰を浮かせた。気が狂いそうに体が疼く。全身の細胞が、男の肌を欲しがってわめいた。

 ファビオもまた昂ぶりに足掻いていた。身を貫く衝動を必死にこらえ、クロフォードを痛めまいと指をすべらせようとする。

「いい、そんなこと」

 クロフォードは悲鳴のように言った。「早く、きみが欲し――」

 ファビオはのぼせた。炎で頭を包まれたように何も考えられなくなった。
 夢中で恋人の体をこじあけていた。つかみかかり、飛び込み、牡牛のように吼えていた。

 クロフォードののけぞった首筋が見える。美しい体が弓なりに反り、悲鳴をあげる。
 その開かれた胸にファビオは唇をあてた。小さく膨れあがり、愛撫を欲しているビーズのような硬い乳首に舌を這わせる。

「アッ――あ、ン、――ファビ、オ、――ハッ、アアッ」

 クロフォードの手が髪をつかんでいる。彼の胸が烈しく浮き沈みしている。
 ファビオはいとしいものを唇の先でつまみ、小さく吸った。

「アアッ!」

 クロフォードがわめいた。「もう――もう来てくれ。早く」

 膝で腰を抱え込んでくる。ファビオのペニスは強くしめつけられ、その甘さに悲鳴をあげた。
 ファビオはたまらず、駆け出した。背筋が、脳天が、次々青い火花を散らす。クロフォードの鳴き声も高くなった。

「――は、あ――ハッ――ハ、アッ、アアッ」

 つらそうに喘ぎながら、ファビオの手をつかむ。ファビオはその手に指をからませ、強く握った。

「ファビオ、好き、だ」

 暗がりの中で、クロフォードがきれぎれに笑った。

「だ、い好き、だ」

 ファビオはぞくりと髪が逆立つのを感じた。溺れそうだった。夢中で駆けていた。群雲にむかって声なき咆哮をあげ、嵐の激しさでいとしい生きものをむさぼった。
 クロフォードが細い悲鳴をあげる。滝壷に落ちるように墜落していた。ファビオはその細身を砕けよとばかりに強く抱いた。

 快楽の潮がどっと行き過ぎていった。

 肉体が喘いでいる。火をおびた息がかさなりあう。
 ファビオは歓喜にあえいだ。恋人の頭を抱え込み、息をはずませながら、唇をさがす。いとしかった。息も舌も魂もすべて、つかみたかった。

(ちくしょう、どうしてこんなにうれしいんだろう!)

 叫び、走り回りたいほどうれしかった。ファビオはベアを抱く子どものように夢中でクロフォードを抱きしめた。




 窓の外は白んでいる。
 空気は冷え切り、青い闇がぼんやりと部屋を浮き出していた。
 ファビオは早い寝息をたてている。クロフォードはそれを聞き、暖かい腕に寄り添ってにやにや笑っていた。

 ふしぎと笑えてくる。
 笑えてしかたがない。笑え、涙があふれてしかたがなかった。
 ひっきりなしに熱い涙が湧いてはこめかみをつたって落ちていく。
 息さえふるえた。

 気をうしないそうなほど幸福だった。はじめて他人という生きものに触れた。その暖かさに愕然としていた。

 どうしても嗚咽が咽喉を割って出てくる。彼はファビオから顔をそむけた。口をおさえ、くるしく声をこらえた。

(主よ――。わたしは傲慢でした)

 聖なるものの大きさに体がふるえた。

(わたしはあなたを見限っていた。地上では、独りで戦うほかないのだと思い上がっていた)

――あなたはわたしをお見捨てにならなかった。天使をお遣わしになり、わたしの傲慢をいさめてくださった。

「どうした……」

 ファビオの重い腕がのそりと浮いた。クロフォードの背を抱え込み、けだるくやさしいキスを落とす。

「フランシス……」

 クロフォードは顔を被い、むせび泣いた。声をあげて泣いていた。止めたかったが、勝手に体が泣きつづけた。

 ファビオの体は温かかった。ひんやりした夜気の中で、翼のように彼を包み、あたためていた。





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