体を重ねあわせた途端、クロフォードは火の柱に打たれたように眩んだ。
いとしい恋人のにおいに全身が沸き立つ。すべらかな感触、健やかな弾力に、彼の中の獣が熱く濡れた。
「ファビオ――」
クロフォードは足をからませ、せつなく腰を浮かせた。気が狂いそうに体が疼く。全身の細胞が、男の肌を欲しがってわめいた。
ファビオもまた昂ぶりに足掻いていた。身を貫く衝動を必死にこらえ、クロフォードを痛めまいと指をすべらせようとする。
「いい、そんなこと」
クロフォードは悲鳴のように言った。「早く、きみが欲し――」
ファビオはのぼせた。炎で頭を包まれたように何も考えられなくなった。
夢中で恋人の体をこじあけていた。つかみかかり、飛び込み、牡牛のように吼えていた。
クロフォードののけぞった首筋が見える。美しい体が弓なりに反り、悲鳴をあげる。
その開かれた胸にファビオは唇をあてた。小さく膨れあがり、愛撫を欲しているビーズのような硬い乳首に舌を這わせる。
「アッ――あ、ン、――ファビ、オ、――ハッ、アアッ」
クロフォードの手が髪をつかんでいる。彼の胸が烈しく浮き沈みしている。
ファビオはいとしいものを唇の先でつまみ、小さく吸った。
「アアッ!」
クロフォードがわめいた。「もう――もう来てくれ。早く」
膝で腰を抱え込んでくる。ファビオのペニスは強くしめつけられ、その甘さに悲鳴をあげた。
ファビオはたまらず、駆け出した。背筋が、脳天が、次々青い火花を散らす。クロフォードの鳴き声も高くなった。
「――は、あ――ハッ――ハ、アッ、アアッ」
つらそうに喘ぎながら、ファビオの手をつかむ。ファビオはその手に指をからませ、強く握った。
「ファビオ、好き、だ」
暗がりの中で、クロフォードがきれぎれに笑った。
「だ、い好き、だ」
ファビオはぞくりと髪が逆立つのを感じた。溺れそうだった。夢中で駆けていた。群雲にむかって声なき咆哮をあげ、嵐の激しさでいとしい生きものをむさぼった。
クロフォードが細い悲鳴をあげる。滝壷に落ちるように墜落していた。ファビオはその細身を砕けよとばかりに強く抱いた。
快楽の潮がどっと行き過ぎていった。
肉体が喘いでいる。火をおびた息がかさなりあう。
ファビオは歓喜にあえいだ。恋人の頭を抱え込み、息をはずませながら、唇をさがす。いとしかった。息も舌も魂もすべて、つかみたかった。
(ちくしょう、どうしてこんなにうれしいんだろう!)
叫び、走り回りたいほどうれしかった。ファビオはベアを抱く子どものように夢中でクロフォードを抱きしめた。
窓の外は白んでいる。
空気は冷え切り、青い闇がぼんやりと部屋を浮き出していた。
ファビオは早い寝息をたてている。クロフォードはそれを聞き、暖かい腕に寄り添ってにやにや笑っていた。
ふしぎと笑えてくる。
笑えてしかたがない。笑え、涙があふれてしかたがなかった。
ひっきりなしに熱い涙が湧いてはこめかみをつたって落ちていく。
息さえふるえた。
気をうしないそうなほど幸福だった。はじめて他人という生きものに触れた。その暖かさに愕然としていた。
どうしても嗚咽が咽喉を割って出てくる。彼はファビオから顔をそむけた。口をおさえ、くるしく声をこらえた。
(主よ――。わたしは傲慢でした)
聖なるものの大きさに体がふるえた。
(わたしはあなたを見限っていた。地上では、独りで戦うほかないのだと思い上がっていた)
――あなたはわたしをお見捨てにならなかった。天使をお遣わしになり、わたしの傲慢をいさめてくださった。
「どうした……」
ファビオの重い腕がのそりと浮いた。クロフォードの背を抱え込み、けだるくやさしいキスを落とす。
「フランシス……」
クロフォードは顔を被い、むせび泣いた。声をあげて泣いていた。止めたかったが、勝手に体が泣きつづけた。
ファビオの体は温かかった。ひんやりした夜気の中で、翼のように彼を包み、あたためていた。
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