第20話


 「ほい。朝飯」

 ファビオはファストフードの包みを渡すと、車を出した。「エジプトにもバーガーキングってあるのかな」 

「さあ、マクドナルドはあるだろ。――コーヒー」

「ありがとう。――イスラムってビーフOKなのか」

「きっと、マトンのセットメニューがあるさ」

「おれさ、むこうでレストランやろうかな」

「いいんじゃないか」

「ピザ屋とか」

「さきにリサーチしたほうがいいな。チーズが好きかどうか」

「立地条件とか」

「競合他社とか」

「折り合う価格帯」

「USP」

「だめだ。情熱とチーズが冷えて固まってきた」

「リサーチしなかったら、ウォルマートがいっても潰れる」

「――ピラミッド楽しみだな」

「うん」

「行ったことある?」

「ない」

「あれは登れるのかな」

「だめだ。禁止されてる」

「登ろう」

「どうして」

「面白そうだからさ」

「いいよ」

「本当?」

「ああ」

「――くそまじめってわけでもないんだ」

「おれが? くそまじめなら生きてないさ」

「よかった。ピラミッドに登るのにもリサーチがいるって言われたら困る」

「金を稼ぐ時はがむしゃらになる」

「どうして」

「貧乏はきらいだ」

「大学出だろ」

「奨学金だ。おれの家はネズミ穴とあまりかわらない」

「どこにあった」

「ブロンクス」

「どうしたの、それ」

「誰か住んでいるだろ」

「家族は」

「いない。死んだ」

「そう」

「倒産、自殺」

「そうか」

「きみの家は?」

「LA。ママもパパも姉さんも元気だ」

「けっこうだ」

「今度、紹介するよ」

「え」

「嫁さんだって」

「ハハ、おれが女?」

「おれじゃないだろ。どうみたって」

「まいったな」

「正式に届けも出そう」

「――」

「オランダで出そうか」

「ご両親が泣くよ」

「泣かせとけ」

「――」

 




「寝ないのか?」

 ファビオはベッドに倒れて、大きくあくびをした。

 クロフォードは、備え付けのパソコンの前にかがみこんで、一心に何かを打ち込んでいる。
 ファビオはビールを二本開け、うとうとと眠くなっていた。

「おーい、寝ないのか?」

「寝ててくれ」

 クロフォードはモニターに吸いついたまま、ふりむかない。
 ファビオはしょんぼりとシーツに倒れた。恋人の体が欲しかったが、とりつくしまがない。
 やがて、いい気分にあたたかくなり、眠りこけていた。

「ファビオ――ファビオ」

 気づくと、クロフォードが耳元で呼んでいる。「ファビオ。遊んでくれ」
 ファビオの体はすっかり寝てしまっていた。目も開けられない。

「明日、朝――」

「だめだ。今だよ」

 クロフォードは笑いながら、ファビオのパンツを脱がせていた。陰部が涼しい。と思うと、あたたかいものがペニスを含んだ。

「うひっ」

 さすがに、ファビオも目を開いた。クロフォードの髪が下腹に触れている。あたたかな舌が彼の敏感な肌をせわしく愛撫していた。
 男同士である。弱い場所を巧みに愛撫され、ファビオは喘いだ。

「ダーリン、待って、待って」

 甘噛みされ、ファビオは肩をすくめてわらった。

「わかったよ。こっちにおいで」

 だが、クロフォードは従わない。顔を放すと、ファビオの上に、そのまま跨った。

「……ン――」

 蜜の炉に吸い込まれる感触に、ファビオは歯を軋らせた。恋人は息をふるわせながら、ゆっくり腰を沈めている。

「――ああ……」

 なやましげな声をあげ、クロフォードは奥深くファビオを含み、股間の上に乗った。

 外の明かりが窓から入ってくる。白い灯りがクロフォードのすべらかな輪郭をかたどった。澄んだ首筋、肩の線、なめらかな腕。

「ン……」

 恋人は腰を浮かせ、ファビオのペニスをしぼりあげた。ファビオの頭にシャンパンの泡のような快楽がはじける。
 深く腰を沈ませ、クロフォードは甘い鳴き声をあげた。
 ファビオはたまらなくなり、その腰をつかんだ。

「ダーリン。もうダメだ」

 身を起こし、クロフォードの体を抱きしめる。つながったまま、いとしい恋人の首をつかみ、その舌を求めた。
 クロフォードも腕をからめてきた。ファビオの舌に舌をあわせ、いとしげに蜜を吸う。

「好きだ」

 甘い息のなかでせわしなく、クロフォードは言った。「愛している、ファビオ」

 愛している、と繰り返しささやき、幸福そうにキスを繰り返す。

(なんてかわいい人なんだろう)

 ファビオは涙ぐみたいような思いで、クロフォードの体を愛撫した。
 はかないほど透きとおって、だが、どこか侵しがたい。孤独で、凛々しくて、自分よりもずっと大胆だ。

 だが、ファビオはねたまなかった。彼に惚れた自分が誇らしかった。
父のように彼を守護したいとおもった。恋人として彼の幸福を永遠に守護したい。
 彼を愛する自分が誇らしかった。
 ファビオは幸福な思いを抱きしめて眠った。

 目を醒ました時、クロフォードの姿はなかった。紙切れが一枚、机の上に置かれていた。

 ――ファビオへ わたしはこの問題を処理してくる。ひと月の間、表に出ないで待っていてくれ。すべてが終わったら、きみのところへ戻る。その時、わたしがどんな状態であっても抱擁してほしい。
                     F・C






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