不貞 第4話 |
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「その子は仔犬かね」 アクトーレスの後ろから、インド訛りの英語が声をかける。「そそる顔をしとるじゃないか。これからお仕置きか」 「ええ。よろしければご主人様も躾をお願いします」 アクトーレスはそう言うと、どこかへ行った。 待っていたように、まわりに人が寄ってきた。好奇の目が狼のように取り囲む。 「これはうまいな。喰っていいってやつだ」 「こういう子は高いぞ。二十億はする」 「アナルはどうだ」 他人の手が尻の間を触った。おれは悲鳴をあげ、弾けるように足を跳ね上げた。 おおっと、と背後から腕が抱きつく。腕はウサギでも抱くようにおれの膝を掬い上げ、見物客に尻穴を向けてみせた。 男たちが失笑した。 「濡れてるじゃないか」 「用意のいいことだ」 頭のなかが真っ赤になった。 濡れた粘膜に男たちの眼が這いまわっていた。ハエのように這い、味を見ている。空想のペニスを突き入れ、唸り声をあげている。 息が波打つようにふるえた。もがいたが、首が振れただけだった。力が入らない。 (ああ……だれか。オクタビオ!) その時、アクトーレスのオクタビオが戻ってきた。彼はおれの背後の客に微笑みかけた。 「代わりましょう」 アクトーレスはおれを背から抱えあげた。慣れているだけに、かるがると持ち上げられる。彼はおれの股間をさらし、見物客ごしにフォルムにむかって呼ばわった。 「ご主人様がた。ヘラクレス像にご注目! 罰をお願いします。どなたか、ヘラクレスに代わってこのケルコペスどもを懲らしめてくださいませんか」 いくらだ、と客のひとりが言った。 「お代はいただきません」 「よっしゃ。わしが一番だ」 すかさず言ったのは、先のインド訛りの客だった。「諸君、悪く思うな。こういうウブなのはめったに味わえんでな」 客はすぐにファスナーをおろした。太った赤いペニスがつかみ出される。それはナメクジのように濡れ、血ぶくれして男のにおいを放っていた。 (……アア) おれは首を振った。 だが、客は前からおれを抱きしめた。 首を振って、懸命にあがく。亀頭が肛門を割って侵入してくる。筋肉が掻き分けられる。 (ヒ――) からだに肉塊が差し込まれていた。 おれははげしくあえいだ。ふたりの人間にはさまれ、恐怖で痺れあがっていた。どうしようもなくからだがふるえる。 「力を抜け。ワン公」 男がなまぐさい息を吐いて言った。 「わしはやさしいぞ。気持ちよくしてやる」 男がからだを揺すり出す。肛門のなかを太ったペニスがぬめぬめと出入りする。淫らな感触が尻のなかをすべりあがる。 (あ、あ) 異物がわがもの顔でおれのなかを漁っていた。はげしくはない。だが、しゃぶりつくすようにゆるゆる動いた。 (だ、だめ、いやだ) はらわたが浮き上がるように騒ぎだす。からだの奥に奇怪な火が揺らめき、心臓が呼応するように高鳴る。 (……) 皮膚の上を冷気が走った。腰のなかが熱い。尾底骨にせつないものが澱のように溜まっていく。 「ンッ――ンふッ――」 おれはせりあがる感覚を噛み潰すように革棒を噛みしめた。 からだの芯から熱いものが染み出していた。こんこんと湧き上がり、腰の中が張りつめていく。からだ中の脈がペニスに結ばれる。 「ンッ、ふッ、ンンッ」 男は汗まみれの顔で笑った。 「見ろ。よくなったってきたろう」 とたんに意識が白くなった。甲高い悲鳴が脊髄を突き抜けた。 からだが躍った。全身の筋肉がまくれあがり、海老ぞりにからだが飛び出した。 「ンンンッ! ンンーッ!」 目が焼かれ、背骨が勝手に暴れる。弾け飛ぼうとする。轟音のような恐怖から逃げようと必死だった。 「ロビン! ロビン!」 鉄の腕が足を抱えこんでいた。おれは金切り声をあげた。それをふりほどき、溺れる者が水面を求めるように跳ねあがった。 「ロビン!」 アクトーレスが耳もとで怒鳴っていた。彼はおれを抱え込み、殴るように叱った。 「あれを見ろ、あれを見るんだ!」 彼は片手でおれの頭をつかむと無理やり首をねじむけた。 ヘラクレス像の向こうに、アルフォンソが吊られていた。 彼の背に半裸の巨人が貼りついていた。 大きな男だった。吊られたアルフォンソを見下ろすほどに大きい。厚い胸には古代風の胴鎧をつけていた。剣闘士犬だ。 「グッ――」 アルフォンソの首筋がのけぞる。 剣闘士犬は彼を犯し、片手で彼の股間を握りしめていた。アルフォンソの片足は下ろされ、地面に爪先だちになっている。その太腿に血が幾筋も流れつたった。 「おまえだけか。おまえだけが苦しいのか、ロビン」 アクトーレスは言った。 「あの犬は何も感じないと思うのか。あの犬がこの広場に出るのははじめてだ。処女でおまえの主に手渡されたんだからな」 アルフォンソのまわりには大勢の人間が囲んでいた。 「イキそうか。ミノタウロス」 誰かが何かを投げつけた。笑い声がどっとあがる。 笑いは棘をふくんでいた。彼らは腹をたてていた。自分たちには手に入らなかった玩具をメチャクチャにしてやろうとしていた。 (――) 揺れていた焦点がしだいに定まった。 アルフォンソは剣闘士犬に突かれ、苦しげに身をよじっていた。胸の筋肉がふるえるほどこわばっている。爪先が浮きかかり、地面をさがして宙を掻く。その脛にさらに鮮血がつたった。 「ご主人様」 アクトーレスが肩越しに、中断させたことを詫びる。 客はいいさ、とおれの顔をつかみ、顎を持ち上げた。 「わしはあんな乱暴じゃない。かわいそうに。罰だって楽しくやらなくちゃな」 おれはすすり上げ、空を見上げた。夏空は眼を焼くように青い。 尻のなかを熱い肉塊がせりあがる。欲望を塗り込められ、なすりつけられる。 汚染されていく。 だが、おれの腹はその肉塊を抱きしめて、うわずっている。脂っぽい中年男の愛撫にざわめいている。 おれは青空を見つめたまま顔をゆがめた。 |
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