犬狩り 第2話 |
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「五十番デクリアから捜査員が派遣されてくるらしいな」 ニーヴスは股の間にいる男の黒い髪を撫でた。手のひらの下で頭がぎこちなく動く。彼のペニスは男の口にほおばられ、不器用な愛撫を受けていた。 「あの猟園の件さ」 甘酸っぱい感覚のなかで、ニーヴスはひとりつぶやいた。 「幽霊犬が主人を撃ち殺したってやつ。――なぜ、上は動いたんだろう。まさか本当に幽霊のしわざでもあるまいし」 恋人は苦しげに鼻息をついている。ニーヴスはその伏せた黒い睫毛を見て、しのび笑った。 精悍な小さい顔が醜いペニスに犯されていた。恋人は小柄で、口も小さいのか、ニーヴスのペニスをほおばると息をするだけで精一杯になってしまう。 黒い眉をしかめ、えずきをこらえる様が、ニーヴスの暗い情欲をそそった。 「犬のしわざではないのに、なぜ、ヴィラは捜査員を出すのか」 ニーヴスはまた言い、テーブルのグラスを取った。 「会員同士の犯罪か。それとも、別の犬のしわざかな」 それとも、――とうすいウイスキーを含む。 「実はべつのものを調べに来るのか」 ペニスからあたたかい口が離れた。うるんだ黒い眸が非難するように見上げる。 「あごが疲れた! こんなことばっかりさせるなら帰るぞ」 「どうぞ」 ニーヴスはわらった。「帰りたいってんなら、いつでも帰っていいぜ」 くそ、とわめいて恋人が立ち上がる。ニーヴスはその腰をさっと抱いてベッドに引き上げた。軽い男だった。 「放せ!」 恋人は怒ってふりむきざま裏拳で払ったが、いきおいがない。その股間にはペニスが松明のように突き立っていた。 「こんな具合で帰りたいって?」 ニーヴスはからかった。「シロップでもかけたみたいにずぶぬれじゃないか。こりゃ服着るのだって大変だ」 「うるさい――」 ニーヴスは恋人の軽いからだをひょいとさし上げると、自らのペニスの上に沈めた。 「!」 男の咽喉がくっとつまり、鍛えられた背がたわむ。 ニーヴスは下肢に泡立つ感覚に歯をきしらせた。強い酒をくらったように脳が熱くゆるむ。 ろくにならしていない。ペニスにからむ相手の筋肉が苦痛に凍っているのがわかる。そのこわばりもざらめのように甘く心地よかった。 ニーヴスは、恋人の首にキスして、 「悪い。痛かったか」 そのすべらかな胸に触れる。指がちいさな乳首をなぞると、恋人の首がかすかに振れた。少しずつ腰のこわばりがほどけ、ニーヴスに溶けていく。 「向き、変えてくれ」 恋人は絶え入るような声で言った。 寝室のガラス窓は庭を向いている。黒い夜を背景にして、窓が大きな鏡になっていた。小児のように股を開かれた自分の姿が恥ずかしいらしい。 ニーヴスは笑った。 「このほうが興奮するだろ。リッチー」 リッチーはぐいとふりむいた。「そう呼ぶなって言ったろ」 「いいや、おまえはリッチー・ラブキャット」 ニーヴスは笑い、首筋に甘噛みした。リッチーがうなり、身をひねりかけたが、ニーヴスは親猫のように首筋を離さなかった。手のひらで胸をおさえ、指先で乳首をしっとりとなでまわす。 リッチーはやがて毒が効いたかのようにうなだれ、されるままになった。 「ん――」 手をずらし、下腹をなでるとすぐにからだが色を増し、快楽にくずれてくる。 「……ここじゃ、いやだって――ア――」 (かわいいやつ) ニーヴスはすべらかな首を軽く吸い、わらった。 気位が高くて、頭もいい。冷徹なミッレペダのオフィサー。 だが、おかしいほど感じやすいからだをしていた。腕に抱え込むと、すぐに腰砕けてしまう。砂糖菓子の仔猫に変わってしまう。 「あの幽霊犬」 指先で恋人の陰毛を撫でながら、ニーヴスはふたたび言った。 「あれはおれが獲った。カナダで――。本当に幽霊が復讐しているなら、おれも殺されるかもしれんな」 指でちぢれ毛を撫で、じらすようにペニスの付け根を撫でる。そこはしずくで濡れ、疼きがつたわるようだった。息がこまかにふるえている。 「おれが死んだら、おまえ――」 リッチーは振り払うように叫んだ。 「ああっ、ニーヴス。もう、もうわかったから」 「帰りたいんじゃないのか」 「――ッ、サド!」 身をねじって噛みつくように口づけてくる。口づけはせつなく懇願していた。 (恋猫リッチー) ニーヴスは窓ガラスにうつる恋人の艶姿に、にがい笑いをきざんだ。 ――ミネアポリスで恋をして、ボロボロになって帰ってきた哀れな仔猫。 ニーヴスは口づけをかえした。かるい嫉妬を感じながら、その太腿をつかみあげた時だった。 背後のドアがいきなり開いた。ニーヴスはふりかえり、はっと目を見張った。 「マービン!」 若い男が銃をかまえて立っていた。轟音とともに火が爆け、ガラス窓が砕け散った。 同時にふたりはベッドの下にころげ込んだ。つづけざまに爆発音がはじけ、時計を、スタンドを、窓ガラスを飛び散らせる。 「ぶっ殺してやる。ふたりともぶっ殺してやる!」 男はわめき、銃を乱射しつづけた。「おれをコケにしやがって。出て来い、シェパード!」 不意に弾が途切れた。 ニーヴスが枕を投げつけ、飛びかかる。男の腕をねじり、銃をとりあげようとすると、男は自由なほうの手でさらにポケットから銃を取り出した。 ニーヴスは叫んだ。 「コリン、逃げろ! 早く」 「逃がすか」 頭蓋が割れるような銃声がリッチーの耳を襲った。 (逃げろったって) リッチーは頭を抱えた。ドアはもみあっているふたりの後ろである。リッチーが割れた窓に目を向けた時、ニーヴスがわめいた。 「そこから! 庭から! 早く! ――痛っ」 「死にやがれ!」 爆発音が響くや、リッチーは窓を開けて飛んだ。はだしに芝草を踏み、夜の庭を走る。すぐに銃声が追った。 「てめえ、シェパード。待て!」 夜闇に銃声がはじける。リッチーは隣家のフェンスを飛び越えた。 (ちくしょう、おれ、はだかだぞ) うろたえたが、嫉妬に狂った男の怒号が追ってくる。隣家の犬まで吼え出した。 ガレージに飛び込んだ途端、いきなり壁からドアが開く。 「わっ」 出てきた人影がおどろいてのけぞった。リッチーも仰天したが、人影はひっくりかえり、持っていた空き瓶をばらまいた。 「お父さん、へんな人が! お父さん、来て!」 騒がれ、リッチーは動転した。とっさにゲートを飛び越え、道路へ飛び出していた。 その途端、まばゆい光が彼に襲いかかった。急ブレーキ音が跳ね上がる。 リッチーの髪が逆立った。突き飛ばされるようにからだが飛び上がっていた。 |
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