犬狩り 第12話 |
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ニーヴスは勝手にリビングに居座っていた。ネクタイをくつろげ、ビールを開けている。 「鍵を作ったのか!」 「鍵なんか作らなくったって入れる。おたがい犬狩りだったんだ。おどろくこたないだろ」 ニーヴスは落ち着き払って見ていた。指で前に座るよう差し招く。 リッチーは怒鳴った。 「出て行け」 「まず話だ」 「話なんかない!」 「マービンとは別れた」 嘘をつけ、とリッチーはわめいた。声がふるえかけていた。 「さっさと出ろ。撃ち殺されたくなかったら出て行け。早く!」 「キャンキャン吠えるな。マービンとは」 「マービンのことはマービンと話をしろ! おれにするな。おれは聞きたくない! 早く出ろ」 ニーヴスの襟をつかんで引き上げる。ニーヴスはあっさり立ちあがった。 「ばか猫」 そう言うと、彼はさっとリッチーの手首をひねってソファに叩きつけた。 リッチーは逆上した。 鋭く相手をつかみ、転がり様、その長身をソファの下に引き倒す。下になった相手を殴りつけようとした。 が、手首をつかまれた、と思った瞬間、からだが浮き上がり、投げ飛ばされていた。 テーブルの上へ跳ね上げられ、騒々しい音をたててボトルが散る。 床に落ちると、リッチーは獣のように転がり起きた。 ニーヴスもすでに身構えていた。旋風のように長い足を繰り出す。 リッチーは身をかわし、次の蹴りを腕でするどく払った。さらに蹴りつける。 が、ニーヴスが消えた。次の瞬間、軸足をくだかれ、リッチーは床に叩きつけられていた。 「クッ」 腹にニーヴスの靴がめりこむ。痛苦にたじろいだ途端、長身がどっと体に被いかぶさってきた。 首筋をあたたかいものがおおった。ぬめった感触が吸いつく。リッチーはぞっと毛を逆立て、叫んだ。 「ふざけるな!」 身を跳ね、必死に暴れたが、ニーヴスの長い四肢がからみつき、バネを封じた。その間も首筋に歯をたてたまま顎を離さない。 「やめろ。殺すぞ」 リッチーは怒号し、ふりほどこうともがいた。だが、とたんに涙がわっとあふれた。怒りと、みじめさがこみあげ、顔がゆがむ。力が入らず、泣きながらもがいた。 「ちくしょう――ちくしょう――」 ニーヴスの歯が首を甘く噛んでいる。舌がなだめるようにやさしくなめた。 「いっつもこうだ」 リッチーはむせび泣いた。「抱けばいいなりになると思って。おれをバカにしやがって――」 「バカにしてなんかないさ」 ニーヴスが唇をふさいだ。舌をからめとりながら、リッチーのからだを腕に包み込む。 リッチーはからだの芯がくずれていくのを感じ、絶望した。麻薬に侵されるように関節が痺れている。四肢が動かず、蹂躙されるままにからだがひらかれていく。 「おまえはおれの仔猫なんだよ。コリン」 ニーヴスのうすいブルーとグリーンの目がわらった。うすいグリーンの眸には茶色いシミが散っている。温度の高いグリーンの眼が逃がさぬよう獲物をわしづかみにし、かたやブルーの目が冷たく突き放していた。 「愛してるさ。かわいいおれの仔猫だ。おれがおまえを育てたんだ」 リッチーは歯をくいしばって泣いた。服を脱がされ、愛撫されながら、自分のふがいなさに歯軋りしていた。 好きだった。 何度騙されても、ニーヴスのふしぎな眼、耳ざわりのよい声、あたたかい腕が恋しかった。どれほど腹をたてていても、魔法でつながれているように、離れられない。 「殺してやる――」 リッチーはすすりあげた。「あんた、いつか殺してやる――」 ニーヴスの唇が乳首をつつむ。濡れた舌でおしあげ、なぞり、音がたつほど強く吸った。 「ッ!」 リッチーがみずからの髪をつかむ。からだが炙られるように浮いた。 (ちくしょう――) 舌の動きとともに不安定な快感が体内を響きわたる。骨を揺るがし、筋肉を蜜と変えて、水紋のようにからだをうねった。 からだのなかが熱い霧となって騒ぐ。 「く、ハ」 リッチーは首を振ってもがいた。アナルが狂おしく疼く。ひざが大きく開いてしまう。愛撫にからだを差し出してしまう。 「ああっ――もう、もういい――。ニーヴス!」 夢中で恋人のからだをたぐりよせていた。 かすかな笑い声が耳をかすめ、次の瞬間、彼のなかに怪物が飛び込んできた。 リッチーは悲鳴をあげた。鋭い痛みに、果実がはじけるように吐精してしまった。 甘美な毒が脳を突き上げる。四肢が痺れあがった。 ニーヴスはすぐに走り出した。ゆるみ、ぼろ布のようになった体をがむしゃらに駆け、こなごなに突き崩していく。 熱い霧のなかにうねりが呼び覚まされ、リッチーは喘いだ。 恋人の熱い息が顔にかかる。汗ばんだ手が彼を掴んでいる。 腰のなかには熱いペニスが奥深くまで入りこみ、魚のようにはげしくおどった。 だが、快感にからだが騒ぐにつれ、リッチーはさびしくて泣けてしかたなかった。 (なんでだ) 快楽にただれ、酸素をもとめてあえぐ肺に、しんしんと寂しさが浸してくる。 (なんで) リッチーはニーヴスの腕をつかみ、爪をたてた。 |
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