ジョーディの旅 第13話

 アレンはモールを探し回った。

 太った買い物客たちが邪魔だった。でかい背中の陰にも、看板の陰にも、どこにもジョーディの姿がない。

 ――どうして、おれは。

 アレンは自分のうかつさに、狼狽していた。

 ジョーディはこれまでひどく素直についてきた。待っていて、という言葉はわかるように思った。
 勝手にそう思い込んでしまっていた。

「アレン!」

 ポーラが人の間をすりぬけてくる。

「警備員室には連絡来てないみたい。――誰かについて行っちゃったのかしら」

「ラロかな」

 それは希望にすぎなかった。もし、ついて行ったとしたら、ラロに似た誰かだ。

「もう一度、モールの入り口を――」

 その時、アレンの携帯電話が鳴った。シカゴ市警察からであった。
 連絡を聞いて、アレンは座り込みそうになった。

「アレン?」

「見つかった」

 ポーラの顔が輝いた。だが、アレンは首を振った。

「いや、ラロのほうが」




 ラロは警察から二度目の連絡を受けて、目を剥いた。

 ――ジョーディをモールで見失っただと?

 いそぎ、神父に連絡を入れる。

「ジョーディを探しにいってください。教区の信者を総動員して」

 事情を聞いた神父は、おだやかに答えた。

『わかった。弟を向かわせよう。その保護してくれた人の居場所はわかる?』

「あなたも行ってくれ!」

 ラロはわめいた。

「ソロモンがジョーディを見つけちまう! そうなったら、祈っても間に合わないんですよ!」

『そのことはもう聞いた。心配するな。――連絡先を頼む』

 必要事項を聞き出すと、神父は勝手に電話を切った。

(ちくしょう! 二度とエクソダスの仕事はしないからな!)

 ラロはハンドルをこぶしで打ち、悪態をついた。

 誰も彼もがジョーディとソロモンを近づけていくようだった。ニュージャージーで警察に通報されていれば、すぐに解決がついたものが、ついにシカゴまで送られてきた。
 なにか不気味な力が働いているとさえ思える。

(神様、何をお考えですか)

 ラロはアクセルを踏み込みながら、泣くようにおもった。

 ジョーディはシカゴに置けない。彼はラロの敵の標的になる。
 だから、彼を施設に入れた。わざわざ遠くの施設に隠した。それがさ迷い出てくるとはどういうことか。
 一方、復讐者を放置しておくとはどういうことか。

(おれから、ジョーディを完全に取り上げようってんですか)




「ラロ。こっち」

 モールの入り口に駆け込むと、聞いたような声がラロを呼んだ。
 グリーンウッド神父に似た金髪の美青年が手を振っている。神父の弟のキミーだった。
 彼の隣には男女ふたりが立ち、ラロを待っていた。男のほうが進み出て、

「電話したアレン・ムーアです」

 ラロはアレンの差し出した手を無視して、ジョーディを見失った状況を聞いた。
 アレンはひどくすまなげに、ハンバーガー・ショップで消えたのだと答えた。

「目を離してから、二分とかかってないはずなんです。でも、フロアにも、回りの店にもいなくて――」

「まわりに変な男はいませんでしたか」

 ラロは声をおさえて聞いた。どうしてもいまいましさが声に出てしまう。

「変な男というと」

「赤毛のうす禿げの、痩せた中年男」

 男女は顔を見合わせたが、知らぬと言った。

「その男が何か」

「ジョーディが襲われる危険があるんです。ジョーディの服装を教えてください」

 これ以上は埒があかない。自分で片端から調べなければならない。
 ふたりにモールの中を捜してくれるよう言い、自分は外へ向かった。
 傍らにキミーがついてくる。

「モールの警備も協力してくれてるよ。おれの友だちたちも」

「そうか。でも、あてにはならん」

「だから、落ち着きなよ」

「おれは冷静だ」

「でも、すごく失礼だったよ。さっき」

 ラロはふりむいてわめいた。

「頼みもしないのに、こんなところに、ジョーディを連れてきやがって。おまけに見失いやがって、ありがたがれってのか」

「でも、あのひとたち、せっかく親切で」

「せっかくの親切でこっちは死にそうだ。兄さんみたいなこと言うな!」




 少し時間をさかのぼる。
 アレンがトイレにたった時、ジョーディの前にモールを歩く子どもが見えた。

 その子どもは手にアイスクリーム店の袋を持っていた。
 ラロがいつも買ってくる店のものだ。幸せの塊のような袋だ。

 ジョーディは立ち上がり、その袋について行った。
 子どもは青年がついてくるのに気づいた。

「なんか用?」

 ジョーディは大好きな袋を見つめた。
 子どもはこの大人がふつうではないことに気づいた。だが、こわいとは思わなかった。

「アイスが欲しいの? でも、これは家で頼まれたものなんだ。自分で買いなよ」

 子どもはジョーディの手を掴み、アイスクリーム屋へと引っ張って行った。

 一見、息子が父親をおもちゃ売り場に引っ張っていく光景に見えなくもない。
 その時、アレンはあわてふためいてジョーディの姿を探していたが、親子づれを見逃し、走り過ぎた。

 

←第12話              第14話へ⇒




Copyright(C) FUMI SUZUKA All Rights Reserved