キスミー、キミー  第15話

 リコは若いミッレペダを見て、内心途方にくれた。
 敵は銃口を見つめ、ぼう然としていた。
 
 ――なんで助けたりしたんだ。

 計算などなかった。ただ流星のように消えようとする命を見て、手をだしてしまった。一瞬のことで敵味方の境界が溶けてしまった。

(こいつがナイフを持っていたら、降下中に刺し殺されただろう)

 そう思うと、自分が腹立たしかったが、生かしてしまったものはしかたがない。

 いずれにせよ、この男をあらためて殺す必要はなかった。
 すでに武器をもたない。足に怪我をしていて、アドレナリンのせいでふるえかけている。

「もうついてくるな」

 リコはハーネスを外し、去りかけた。
 砂の上でパラシュートが風にふくらみかけている。つい習慣からそれをたぐりよせると、背後からミッレペダが、

「それ、おいていけ」

 と言った。
 濃い茶色の目が屈辱に光っていた。

「うちのだ」

 リコはパラシュートを放し、歩き出した。

 敵が去り、ピートは地面の上にばったりと倒れた。アドレナリンのせいでしばらく力が入らない。混乱してもいた。

(味方に置いていかれた)

 置き去りになったというのが信じられない。死骸になったと思われたのだろうか。

 通常の軍隊であれば、死骸であっても戦友を置き去りにしないのが、常識である。その連帯感ゆえ、彼らは命がけで戦う。
 ミッレペダは軍というより、工作機関であるため、その風潮がうすいのかもしれない。

(くそ。足が痛んできやがった。とにかく、なんとかしよう)

 ピートは体を起こした。顔をあげ、彼は信じられぬ光景を見た。

(あれだ)

 とおもった。
 仲間があわてて飛び去ったのは、あれが理由だと知った。

 平原に巨大な壁がたち、彼に迫っていた。
 砂、である。
 暴風にまきあげられた砂粒が津波のように立ち上がり、砂漠を驀進していた。

 ピートは凧のように浮きかかっているパラシュートをつかみ、その中にもぐり込んだ。
 すぐにどしゃぶりのような音をたてて砂が襲った。風がはげしく布を叩き、彼を吹き飛ばす。

(最悪だ)

 ピートは必死に布をつかみ、身をちぢめた。暴徒にとり囲まれ、殴りつけられるようだった。

 いきなり風が彼からパラシュートをむしりとり、暴風が吹き込む。と、ともに大きな砂のかたまりが転げこんできた。

「!」

 ピートは飛びすさりそうになった。
 砂岩でできた化け物が入り込んでいた。顔半分にハンカチを巻いている。
 アクトーレスだった。




 砂嵐に閉口したのか、アクトーレスはまた戻ってきた。勝手に傘体を引っ張ってひろげ、自分の居場所をこしらえる。それがすむと、ハンカチをとって顔の砂をはたいた。
 ピートはいないも同然だった。

(このやろう。ばかにしやがって)

 猫が毛づくろいするように砂を払っている敵を見つめ、ピートは歯軋りした。

 完全にあなどられている。それ以上に、自分がこの大男の再訪にふるえあがっているのがくやしかった。

(思いしらせてやる)

 隙を見て、尻ポケットの銃を奪おうと決めた。でなければ押し潰されそうでおそろしくてならない。

 布にあたる砂の音を聞きながら、ピートは息をつめていた。
 アクトーレスはひと通り砂を払うと、どっかり座って、動かなくなった。大きな背を丸め、灰色の眼を半眼に閉じて、風が止むのを待っている。

 砂粒の叩く音がひっきりなしに鳴った。
 ピートは緊張して待った。大きな尻から突き出ている黒い銃把を見つめ、アクトーレスの横顔を見つめた。

(意外に顔が小さい)

 つい、そんなことも思った。
 頸が太いわりに、あごはいかつくない。意外に鼻梁のまっすぐな、思索的な、おとなしい顔をしていた。

 しだいにピートは疲れた。傷の疼きが耐えがたいほどにはげしくなり、出血が長く続いていた。

 いまか。いま、やるか。
 と思ううちに、まぶたが重くなっていた。

 ピートは不意に目をひらいた。
 砂の音が減っている。風の唸りが弱まっていた。アクトーレスも気づき、身を伸ばしかけていた。

(いまだ)

 ピートは銃に飛びついた。途端、こめかみから一撃を喰らい、からだが飛ぶ。

 砂の上をころげ、傘体の布がからだに巻きついた。
 しまった、と思った時には布の上から、敵の体が降ってきた。

「ぐっ」

 腹の上に巨体が飛び乗り、ピートは目を剥いた。みぞおちに内臓が詰まり、一瞬、気が遠くなる。

 灰色の目がすぐ前にあった。感情の消えた鈍い目、あるいは獲物を屠る刃物そのもののような冷たさが見ていた。

 ――もうダメだ。

 ピートは思わず目をぎゅっとつぶった。

 どれほど待ったろうか。
 あやしんで目を開いた時、顔の上でアクトーレスが冷たくわらった。

「おまえ、かわいいな。――させろよ」

 ピートは一瞬、なにを言われたのかわからなかった。だが、乱暴にベルトがはずされると、彼は仰天して、暴れた。

「ふざけんな。ぶっころすぞ」

 抗おうとしたが、パラシュートの傘体とロープが腕ごと体に巻きつき、肘が動かない。ズボンを脱がされ、彼はあわてた。

 ピートはふだんから下着をつけなかった。ズボンをおろすと陰部があらわになってしまう。

 ひざまでズボンをおろされ、尻に焼けた砂が触れた。目が合った。灰色の目があざわらった。

「よせ」

 あっけなくひっくりかえされ、腰をつかみあげられる。尻をつきあげるかたちにされ、ピートはもがいた。

「やめろ! ばか。てめえみたいな不細工、お呼びじゃねえ!」

 顔を熱い砂のなかに押し付けられる。砂が鼻と口からもぐりこんできた。懸命に横をむき、それを吐き出していると、尻たぶがふたつに大きくひらかれた。

(!)

 粘膜の裂ける鋭い痛みが脳天まで突き抜ける。大きなものに押し広げられ、ピートは悲鳴をあげた。

 太く熱いものが彼を裂き、叩き壊して、突き進んでくる。切れた毛細血管から血が溢れ出すように、尻の穴が熱した。

(つ――)

 ピートは歯を食いしばった。自分の尻に高温の重いものがずっしりと嵌りこんでいた。ひどく熱い。また、靴でも入っているのではないかと思うほど、大きく感じた。
 それが動いた。

「痛え。やめろ、やめろ!」

 ピートは砂をつかんでわめいた。
 男を抱いたことはあっても、自分の尻に何か入れられたことはない。硬い筋にそのペニスは大きすぎた。

 さらに肛門かペニスかどちらかに、砂粒がついている。それがやすりのように粘膜を切り裂き、ピートは痛みにのたうった。

 アクトーレスは容赦なかった。大きな手で腰をつかみ、彼から骨盤をとりはずすかのように荒々しくわがものを叩きつけた。

「うっ――クッ」

 熱い砂に顔をつけられ、からだをはげしく揺さぶられ、ピートは信じられぬ思いがした。

(このおれが、レイプされている?)

 尻を高くさしあげ、突かれるごとに悲鳴をあげ、身もがいている。肛門の筋肉がばらばらになるのではないかと怯え、やめてくれ、と懇願していた。

(あ)

 アクトーレスが息をつめる気配がした。彼の体内でペニスを跳ね、熱い精が腹のうちに叩きつけられた。

 太いペニスが尻から抜かれる。
 腰を放され、ピートは砂の上に崩れた。内臓ごとごっそり抜かれたように、ぼう然として動けなかった。

 尻の穴が窓のように空いたまま、しまらない感じがしている。しかも、尻たぶに何か洩れ出てくるのを止められずにいた。

 アクトーレスはすでに身じまいしていた。

「もう、飛びついてくるな。ばか」

 彼は立ち去った。



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