キスミー、キミー  第23話

 数人の若い男たちが、彼をサッカーボールのように蹴り転がした。

 何度か気絶すると、階下の独房に放り込む。
 数時間して、ピートが痛むからだを抱え、思考をめぐらしはじめる頃、また迎えに来た。

 質問はない。ただ殴られつづける。
 数度、これがくりかえされ、ピートは歯軋りした。房に近づく足音を恐れるようになっていた。

 三日目はそれがやんだ。暴行は受けなかったが、彼は与えられたスープにあたって、嘔吐し、腹をくだした。
 腹の中身をすべてバケツにぶちまけると、腹の力がごっそり抜け落ちてしまった。

「さあ、今日はまともな話を聞かせてもらおうか」

 翌日、サイモンは数日ぶりに、現れた。
 ピートは椅子に沈みこみ、白い目で見上げた。打撲の腫れと食中毒の熱で喘いでいた。

「会社に問い合わせてください」

 彼は、ヴィラのダミー会社の名を言った。

「わたしの身元を証明してくれます。わたしはそこの従業員です」

 サイモンは遺憾だというように首を振った。すぐに彼の部下がピートの肩をつかみあげた。

「本当なんだ」

 ピートはわめいた。

「おまえたちは人違いしたんだ。おれはただの」

「きみが憲兵隊のオフィスから電話をかけて、この国のえらいさんに便宜をはかってもらったことはわかってるんだよ」

「あのひとは以前、仕事で会ったことがあるだけだ。アルジェリアにきて、困ったことがあったら連絡するよう言われて」

「きみはミッレペダの隊員だ。あのでかい男も。だが、あとのひとりは誰だ? あれは犬じゃないのか」

「キミーはただの小僧だ。ハンバーガー屋でアルバイトして金をためて、冒険にきたんだ。彼らはアメリカの旅行者だ。おれはそれ以上のことは知らん」

 サイモンは微笑んだ。

「その銃創は」

「強盗に遭ったんだよ。砂漠におっぽりだされて困ってた時に、彼らに拾ってもらったんだ」

 サイモンは笑い、部下にあごをしゃくった。

 部下たちはピートを床に引きたおし、あお向けに張りつけた。四肢にひとりずつ男が乗り、からだを押さえつける。

 残った人間が、ピートの下肢から、ズボンをおろした。ペニスをあらわにされ、ピートは血の気をひかせた。

 サイモンは嗤った。

「わたしはきみらと違ってゲイじゃない。レイプはしない」

 だから安心しろとは言わんが、と言って、部屋から出て行った。
 入れ替わりに入ってきた男を見て、ピートは泣きそうになった。

 その男は串焼きにつかうような鋭い金串を持っていた。
 ピートは抗った。

「やめて。やめてくれ。お願いだ」

 若い兵士が髯のなかでニヤリと赤い唇を歪めた。串の冷たい感触がペニスに触れる。

(ああ)

 ピートはぎゅっと目をつぶった。気絶したかった。
 だが、がさがさした手がペニスをつかみ、ひっぱると、おそろしいほど皮膚が敏感になった。その尖った先が尿道口に差し込まれた。

 冷たい火がペニスを貫いた。
 思考などない。ただ野獣のように叫び、のたうっていた。異物が尿道を切り裂き、串刺しにしている。さらに奥へとすすんでいた。

 ピートは泣き喚き、身をのけぞらせ、逃げようとあがいた。串は長い。全部入ったら、心臓まで突き抜ける。

 だが、串は少しだけ膀胱のうちに入り、引き抜かれ、ペニスにとどまった。
 若い男が、勃たせてみろ、と笑う。

「なんなら、おれが手伝ってやろうか」

 冗談ではなかった。若い男たちはこの見世物が面白くなり、より残酷なショーをのぞんでいた。
 右手を押さえていた男が、右手を離す。

「マスを掻けよ」

 ピートは勘弁してくれ、と泣いた。触るどころか見ることすらできない。
 だが、男は無理やりピートの手をとり、ペニスを掴ませた。
 ペニスが動き、なかで荒々しく串が動いた。ピートはその瞬間、気絶した。




 男たちは何度かピートに自慰をさせようと試みた。
 自衛本能であろう。ピートは自分のものを掴ませられるたびに、ふらふらと意識をうしなった。

 ついには気の短い男が、ピートのペニスをぎゅうぎゅうつかんでこすり始めた。恐ろしい愛撫に尿道のなかは切り刻まれ、ペニスが血まみれになった。

 ピートは気絶しているうちに独房に戻された。
 ズボンは穿いていなかった。目を醒まし、血まみれのペニスを見て、ピートは泣いた。

 翌日、サイモンは質問しなかった。
 ただ、からかうように、

「そいつを勃たせてみてくれよ」

 と言った。
 ピートはすでにガクガクふるえていた。恐怖にはがい締められ、口をきくこともできなかった。

「男の子に口でやってもらわないとダメかい」

 サイモンは笑った。

「先に勃たせたほうが、刺さりやすいだろ」

 彼の部下が串を持って近づいてきた時、ピートは腰を抜かしそうになった。思わずおさえた股間から、ぽたぽたと滴が垂れた。
 手のなかで勝手にペニスが尿を洩らしていた。

「う」

 恐怖のせいか、すでに筋肉が破壊されてしまったのか。ピートは小便をもらしながら泣いていた。

 からだが恐怖に耐え切れなくなっていた。
 兵士に肩を掴まえられた時、ピートはわめいた。

「キミーは犬だ。やめてくれ。もうやめてくれ!」




 ピートは洗いざらい話した。
 話の過程で、リコがアクトーレスであることも明かさねばならなかった。

 作り話をするという思考力は消えていた。串の先端でペニスに触れられると、彼はヒイヒイ泣いた。

「やはり、そうか」

 サイモンは気むずかしい顔をして聞いた。なにごとか失望したようだった。
 だが、ピートが真実を話しているということは信じた。

 ピートは独房に返された。
 食事も出たが、とても手がつけられない。

 ペニスが異様に腫れあがり、頭から汗が出るほど痛んだ。くわえて下腹が痛む。しだいに熱が出て、ピートはのたうちまわった。

 地獄の夢ばかり見た。串が真っ赤に焼かれていた。それがペニスを突き通す。膀胱を貫く。肉が焼けて煙をあげ、ピートは絶叫した。

 うるさい、と何度も見張りに小突かれた。
 ついに死神がきた。黒い大きな塊が覆い被さり、鎌で額を撫で上げた。

 ピートはなぜか、それでペニスを切られると思った。

「あ、あ、ああ」

 哀願しようとするが、言葉が出ない。
 すると、死神はやさしい声で、

「こわがるな。おれだ。リコだ」

 と言った。



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