キスミー、キミー  第25話

 その日は表が騒がしかった。
 車の動きと人のにぎわいがある。くだんの若者の話では、ボスに客が来たということだった。

 ピートはそわそわした。

(援軍が来たのではないか)

 ミッレペダの強襲にそなえて、兵力を増強しているのではないか。さらには、

 ――さっさと処刑しようと言い出すかもしれない。

 などと、不安な想像をめぐらせた。
 結局、日暮れまでなにごともなく過ぎたが、ピートは張りつめすぎて疲れ、滅入ってしまった。
 彼はつい、不安を口にした。

「例の犬はきっと発信機を抜いたんだ。でなきゃ、こんなに遅いはずがない」

 リコは答えない。
 暗闇のなかで寝そべり、なにごとか思っている。眠ってはいないようだった。

「リコ――」

「そうかもしれん」

 リコはしずかに言った。

「出よう。ここを」

 客が来て、警備が浮ついている。トラブルに対し、迅速な行動がとりにくいはずだ、と言った。

「最後のチャンスかもしれん」

 ただし、リコはこの牢をたずねる時、フロアの入り口がひとつしかないことを見ている。

 その入り口の外側に、見張りがたむろしており、彼らの談笑する声がよく聞こえた。リコが見た時は、四人の人間がいた。いずれも自動小銃で武装している。

「きみが死人役になれ。運び出させ、その時に銃を奪う」

 その後、向かいの棟にいるキミーを救出にいく。向かいの二階の奥に隔離されている、と聞いていた。

 ――夜明け前。

 決行しよう、と決めた。

 ピートは希望がもてずにいた。死人のふりをして銃を奪い、奪った銃が給弾不良を起こしたら? ひとり逃して味方を呼ばれたら? 二十人を相手にするのか?

 正確なキミーの位置もわからない。探し回るうちに弾切れするか、射たれるのではないか。

「おれはこわいんだ」

 彼はなさけなく告白した。

「チビリそうだ。こわくてたまらない」

「なぐさめてやろうか」

 ピートはその意味をさとり、小さく吹いた。
 だが、彼はふりかえり、やさしく言った。

「ああ。そうしてくれ」

 リコの影が息をつめた。

 ピートはその顔をつかみ、口づけた。おどろいた舌をからめとり、むさぼるように吸いあげる。
 リコの腕がすぐ背中にまわった。

 ふたりは転がるようにはげしく、たがいの体をまさぐりあった。
 口づけあい、削ぐほどに強く撫でまわし、たがいの服に手をいれ、ペニスをさぐる。下肢からズボンを脱がせあい、からだを擦り合わせた。

 裸の腰がかさなり、昂ぶったペニスがからみあった。そこに太い指が這い、まさぐる。

(!)

 傷ついたペニスをつかまれ、ピートは一瞬、たじろいだ。
 だが、指は乱暴ではなかった。ペニスをやさしく握り、指先で亀頭から粘液をまきとり、それをからめている。濡れた指で彼の肛門を愛撫した。

「んっ――」

 肛門のなかに太い指がもぐりこみ、ピートは肩をすくめた。

 照れくさかった。太い指がやさしく肛門の筋肉をほぐしている。指先で前立腺をなでまわし、あやしげな熱を下腹に散らしている。
 肛門のなかをふとい節がこづくのを感じ、ピートはその不安な快感に眉をよせた。

「ンッ――あッ――」

 あえぐのが気恥ずかしい。足をひらいて愛撫を受けながら、ピートはまともにリコを見ることができなかった。

 ひどくここちよい。尻のなかだけでなく、脳のどこかをもみほぐされるように、からだがほどけてくる。背骨が浮き上がる。

 リコがふたたび口づける。口のなかを舌で嬲られ、肛門のなかをもてあそばれ、ピートは気恥ずかしさに目をとじた。

 えたいの知れない快楽が身をひたしていた。強い雄に組み敷かれ、嬲られ、おそろしいほど力がぬける。従順にからだがひらく。

「あ、は――」

 内部の指先から、潮がうねるように快感が押し寄せ、ピートは身をくねらせた。

「だめだ。イク、イクから」

「一度イけよ」

 拒む間もなく、潮がせりあげ、ペニスがはじけた。火が噴き出るように快楽がすべり出ていく。

 とたんに指が抜かれ、うつぶせにひっくり返された。尻たぶをつかまれ、熱いペニスが弛緩した尻のなかにもぐりこんでくる。

「ヤ、あ、――クッ――」

 ピートは床に爪をたて、はげしく喘いだ。快楽の余韻が筋肉をとろかしてしまい、身を守れない。ほぐれた粘膜が突き飛ばされ、ちぎれていく。

 ペニスは巨大だった。からだをどこまでも左右に開いた。

「はッ――、アアッ」

 からだの力を抜くと、尻のなかで燃えているものの大きさがいっそうにふくらむ。骨盤がはちきれそうになる。

(ああ)

 ピートは自分のなかで脈打つものを感じ、息をふるわせた。
 大きな手が腰骨をはさんでいた。熱いペニスに貫かれ、完全に征服されていた。

(……)

 ペニスがふたたび金槌のようにこわばるのがわかる。
 無力感がおそろしくここちよい。頭蓋骨が砂糖のようにくずれ、飛び散り、宇宙にひろがるような解放感があった。

 リコは彼の腰をつかみ、ゆるやかに走り出した。

「アッ、ヒ、――」

 巨大なペニスが彼を突き崩すように揺する。
 尻の穴が、外に飛び出るのではないかと思うほどひりついた。

 だが、痛みのなかに、強い酒がいりまじっている。肉体をどこまでもとろかし、やわらかく、甘酸っぱく変えていく。血を流しながら、ピートは恍惚とからだを揺らしていた。

「ん、ああ、ハア」

 知らず、声をあげ、頬を濡らしていた。身をくねらせ、うめき、よがった。それが楽しかった。
 肉体ではない、どこかが痺れ、解き放たれた。

「アア、くそっ――」

 目の裏がスパークする。こらえきれず、射精した。今度こそ、全身のエネルギーが根こそぎ飛び出ていった。

 ピートのなかにも熱い精液が叩き込まれた。かすかにそれの重みを感じた気がして、彼はまた気恥ずかしくなった。

(ああ、おれは)

 すっかりこいつの女になっちまった、とおもった。
 リコはからだを離すと、一度ピートを太い腕でからめとり、抱擁した。
 ピートはリコの肩に頬をつけ、あえいだ。幸せな気持ちでその厚みを感じていた。

(おれはこいつにあこがれていたんだな)

 と、気づいた。

 レイプされた後、ピートは焼けた砂の上にぼんやり倒れていた。
 砂漠はいましも陽が落ちるところだった。ゆるやかなグランド・エルグ・オリエンタルの遠い砂丘がピンク色に染まり、空にとけていた。

 そこに人影が去っていこうとしていた。
 ベージュとピンクのまざりあう落日の地平にとけこむように、人影が小さくなっていく。

 ピートはからだを引っ張りあげ、足をひきずって追った。
 ほとんど何も思わずに、そうしていた。

(あの時、あとを追ったのは、この男をもっと知りたかったからだったんだ)

 ピートはもう一度、リコに口づけた。
 幸せに酔った。キミーへの遠慮、死の恐怖、ミッレペダと合流した時の苦悩、すべてが押し流されるほど幸せだった。



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