キスミー、キミー  第27話

  モンティに抱かれた後、今度はキミーがモンティの尻を犯した。
 その頃になって、ようやく老人がすすみ出て、キミーの腰に自分の腰をかさね、すりつけた。

 彼のペニスは勃たなかったが、キミーが代理でモンティを抱いたことで満足したのだろう。
 老人はベッドの上に倒れた。ふたりの美青年の間で高いびきをかいて眠った。

 キミーはそっと目を開けた。身をおこしても、老人が目を醒まさないのを確かめると、

「モンティ」

 モンティはすぐに目を醒ました。

「逃げよう」

 キミーは破廉恥なショーの合間に、手錠の鍵がサイドテーブルに置かれてあるのを見ていた。老人が手錠をはずして遊ぶために出してあったのだろう。
 銃もあった。

「無理だ。おまえだけいけよ」

 モンティはいやがった。なにかすれば、半月のような刀で首を切られると信じている。
 キミーはベッドを降り、指先で鍵をとると、鍵穴を探した。

「おれは行く。ここに恋人が捕まってるんだ。助けてあげなきゃ。きみひとりで残ると、痛い目に遭うかもしれないよ」

 無理だよ、とモンティは意気地がない。
 だが、キミーは手錠をはずし、それを老人の両足にとりつけた。
 チャンスだった。このチャンスを活かさなければ、一生後悔すると感じた。

(リコを助ける。今度はおれがやらなきゃ)

 老人の細い手首をふたつあわせて、モンティからはずした手錠を嵌める。
 その時、老人が目をひらいた。
 キミーはぎくりと身をこわばらせた。

 老人は手錠に気づき、わめき声をあげた。キミーは枕で口をふさごうとしたが、小さいからだを跳ねさせて馬鹿声をあげる。キミーは銃をつかんで、脅そうとした。

「シャイフ・アハマド?」

 ドアの外で護衛が呼んだ。老人が助けを求めた。
 ドアが吹っ飛び、銃口が入ってきた。一瞬のことだった。キミーはふりむき、引き金を引いていた。

 弾はドアにあたり、木っ端が散った。二発目は護衛の胸板にあたった。
 護衛は口をまるく開けた。ひっくりかえり、尻をついた。

 無音の悲鳴があがった。護衛はあえぎ、這うようにして転げ出ていった。
 キミーは凍りついた。轟音のために耳が麻痺し、精神活動も麻痺した。

 火薬のにおいが舞っていた。だれかが悲鳴をあげていた。
 老人がキイキイわめいていた。

 キミーは考えずに、その顔に銃口を向けた。老人が石でふさいだように黙る。

「キミー」

 モンティが蒼ざめて、見ていた。

「やらなきゃ」

 キミーはぼう然と言った。

「今度はおれがやらなきゃ――」




 リコは闇のなかで耳を済ませた。
 ピートも息をつめている。

 銃声が二発つづいた。
 さきに一発の銃声が聞こえた後、見張りの人間が出てゆき、帰って来て笑った。客のいたずらだということだった。
 また銃声が響いた。

「あれはAKの音だ」

 ピートが言いかけると、さらに応戦する音が聞こえる。銃撃戦が起きていた。
 見張りの男たちも異変に騒ぎ出していた。
 リコは言った。

「靴を履け。出るぞ」

 見張りの男たちが駆け出していくと、リコは鉄格子の扉を勢いよく蹴りつけた。派手な音がたったが、誰も戻ってこなかった。

 何度か蹴るうちに、蝶番が吹っ飛び、扉が傾いた。それを押しひしぐようにして、肩を出す。

 ふたりは房を抜け、見張りのいなくなった入り口を出た。
 リコはそこで小さい腰かけを拾った。

 中庭ではけたたましい騒ぎが起きていた。銃声が響き、あちこちでわめき声が跳ね上がっていた。

「火事だ」

 という叫びも聞こえた。

 はたして、二階に煙をふきあげている窓がある。
 男たちは興奮して走り回り、そうでない者はあ然と炎を眺めている。

 リコはそのひとりに近づき、椅子の一撃を見舞った。男はふりかえりもせず、棒のように倒れた。その腰から拳銃を奪う。
 ピートに銃を投げ、

「車を確保しろ」

 と言った。
 ピートは影のように走り去った。

 リコはAK47を持っている男を見つけ、殴りかかって武器を奪った。その男を撃ち、柱の影に移動する。

 中庭でわめいている男の頭を狙って撃つ。二発。
 影は糸が切れたようにくずれた。

 べつの男がふりむく。その顔を撃つ。
 木のはじけるような音がたち、銃火がひらめく。そちらに向かって撃つ。

 ――こいつは右上に跳ね上がる。

 銃の癖を補正しながら、リコは狙い撃った。
 二人を倒すと、リコは回廊を駆け、向かいの入り口に飛び込んだ。




 キミーは壁に張りついて、敵の気配を待っていた。

 キミーとモンティは一室に隠れ、出られなくなっていた。ふたり、突撃してきた男を撃った。
 その後は、銃弾だけがドアから飛び込んでくる。

(弾がなくなったら、終わりだ)

 キミーはひどく冷静にそう思った。
 自分は敵を撃った。彼らも自分たちを撃ち殺すだろう。それが当然だ、と思った。

(気の毒なのは、こいつだ)

 隣でふるえているモンティが哀れだった。なんの罪も犯していないのに、巻き込まれて死ぬ。

(なんとか脱け出せないか)

 敵がわめいている。なにか混乱が起きている気がした。突破するなら、今かもしれない。
 ためしにクッションをドアの前にさしだしてみる。なんの反応もなかった。

「モンティ。出るよ」

「出れねえよ。ばか!」

 モンティはキミーの肩にしがみついた。「絶対だめだ。もうやめろ」

「やめてどうするんだ! ここに住み着くわけにいかないんだぞ」

 だが、モンティは恐慌をきたしている。キミーの首を締めんばかりにしがみついていて、動きがとれない。

「モンティ。放せ。行かなきゃ」

 振り払おうとした時、銃口と大きな影がころげ込んできた。キミーはとっさに引き金を引いた。同時に影が怒鳴った。

「キミー、おれだ」

 銃声がそれをかき消した。

 リコは伏せた。間に合うものではない。
 銃火の残像がのこり、キミーが別人のようにカッと目をみひらき、銃を構えている姿が見えた。

 被弾はしていなかった。

「おれだ。ばか!」

 リコは跳ね上がり、キミーの手から銃を叩き落した。キミーはなお、硬直している。
 リコはその頬を軽く叩いた。

「おい! 大丈夫か」

「リコ」

 キミーはようやく声を発した。声がしわがれていた。

「表の連中はほとんど逃げた。行くぞ」

 キミーを立たせると、そのうしろからもうひとり若い男がついてきた。

「こいつは」

「モンティ」

 キミーは抑揚のない声で言った。「彼のご主人様が下にいる。助けてあげないと」

「わかった」

 ついてこい、と言って、リコは表に出た。



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