キスミー、キミー 第30話 |
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ピートは翌日、ミッレペダに連絡を入れた。デイトン主従とともに、専用機で収容され、その足であわただしく大小の報告会に出た。 アルジェリア政府に異心ありの報せに、上層部は動揺した。すぐに情報班が派遣された。 ピートのほうでも、おどろくべきことを聞いた。 ヘリが引き返したのは、砂嵐のせいではなかった。 「えらい騒ぎだったのよ」 金髪の大男、レニーはめずらしくしぶい顔をしてみせた。 「パイロットが撃たれてな」 「タローが?」 レニーはその騒動を話した。 ピートとリコがヘリからこぼれ落ちた後、副操縦士がすぐに隊員たちの手錠を切ってまわった。 ソルが撃たれ、ピートが落ち、隊員たちは動揺していた。主操縦士のタローは当然、リコを追うものとヘリを降下させかけていた。 だが、作戦指揮官のフィルモアがそれを止めた。 ピートは死んだ、と言った。 「皆、逆上してな。たとえ死体でも置き去りにすることはできねえだろ。ましてや、今があのアクトーレスを撃つチャンスなんだから。タローもコクピットから見て、ふたりは生きているって言ったんだ」 すると、フィルモアは唯一残っていたM16をとり、威嚇射撃をした。 命令に違反する者は誰であれ撃つ、と言った。 「でも、タローはああいうやつだからよ。腰抜け、とかなんとか言っちまったんだよ。そしたら、バン、バン、だよ」 全員、信じられない光景にぼう然となった。 一発は肩を、一発は顎を打ち砕いた。 「タローは?」 「生きてる。生きてるよ」 副操縦士はそれでふるえあがってしまった。 フィルモアは彼にタローに代わって操縦するように言い、ヘリは反転して基地に帰った。 第二デクリアのデクリオンはピートが戻ってこないので、当然詰め寄った。 フィルモアはピートが死んだといい、砂嵐を避けるため退避したと言った。だが、タローは瀕死の状態であり、仲間からの報告もあって、混乱した。 結局、北アフリカ師団の師団長であるケントゥリオンが出て、事態の収拾をはかった。 車輌隊が捜索に出され、飛行場前に検問が敷かれたが、発見できず、ふたたび捜索ヘリが出されたのは、二日すぎてからだった。 フィルモアは辞任したという。 「やつはPTSDだったんじゃねえかって話だよ。ほら、ヘリが落ちた後、真っ青になってたろ」 心理的にストレスの高い経験すると、数年たってから症状が出ることがある。 SASの隊員は並ならぬ心労に耐えて活動している。ヘリの墜落の時にその毒が発芽してしまったのではないか、とレニーは言った。 よい報せもあった。 撃たれたはずのソルはピンピンしていた。 「神が奇跡をもたらし、よき羊飼いを守りたもうたのだ」 と言って、壊れたニンテンドーを見せた。 抗弾ベストのケブラー繊維とニンテンドーのおかげで、弾は肺に届かなかったらしい。 ピートはソルを抱きしめた。 「心配させやがって」 「それはおまえだろ」 彼らはパブでおごると言ったが、ピートには先約があった。 ノリーが基地の前で待っていた。 「ちょっと、ピート。またかよ」 ノリーは笑いながら、転がり起きようとした。 「待って。ブレイク! ブレイク! コーヒーでも飲もう」 「ノー、ブレイク」 ピートは彼の腰をかきとり、シーツの上に組み伏せた。 濃い黒い目が笑って見ている。愛情に満ちてやさしかった。 「さかっちゃって。死にそうになったんじゃなかったのかい」 「死にそうになると、人間は勃つんだよ」 人間は勃つのかよ、と笑いころげる。ピートはその顔をかかえて口づけ、恋人の長い足の間にからだを割りいれた。 腰を重ねると、ノリーのペニスもすぐに反応する。 「あ……」 ノリーが眉をひそめ、顔をそむける。せつなそうに横目で見て、微笑う。 ピートは感激にぼう然とする思いがした。 ――こいつ、こんなかわいいやつだったか。 睫毛の長い黒い目も、汗の光るなめらかな頸も、なにもかもみごとだ、と思った。 砂の上にこんな美しいものがあったろうか。 「どうしたんだい」 「ノリー、ケツの穴見てもいい?」 ノリーは吹きだし、さっと長い足をあげて、自分でひざの裏をつかんでみせた。 尻も内股も、堂々として筋肉の張りが美しい。 小さい穴はみだらに濡れている。透明なローションが光り、さらに、ひとしずく精液を垂らしている穴を見て、ピートの胸にまたいとしさがこみあげた。 「ノリー! おまえはおれのオアシスだ!」 飛びつくようにして、彼は恋人を抱いた。 コーヒーカップを渡し、ノリーはけだるく笑った。 「なーんか、抱き方変わったぞ。砂漠でいい子でも見つけたのか」 「ばか」 ピートはコーヒーを噴きそうになった。 つい、リコとの一夜が思い出され、うろたえかける。 「おまえこそ、なんだよ。フィルモアと」 「フィルモア?」 ピートは出撃直前に見たラブシーンの話をした。 ノリーは首を振って呆れ、 「おれはやつに、リコのことで用があって行ってたんだよ。やつがサファリの指揮官だって聞いたから」 「抱き合って?」 「抱き合ってないって。おれの手はどこにあった? やつの肘をつかんでいるのを見なかったか」 ピートは目をしばたいた。うれしいような、情けないような、なにか締まらぬ妙な気持ちがした。 「……リコがなんだって」 「殺すなって言いにさ」 ノリーは彼がまだ新人だから、上も情状酌量があるかもしれない、射殺しないで連れ帰ってきてくれ、と頼んでいた。 新人がヴィラの風に慣れず、気の毒な犬を甘やかしてしまうケースは多い。犬がそそのかしたといえば、言いぬけできる道があるかもしれない、と考えたという。 「でも、ミッレペダに怪我させたんなら、もうダメだろう。あとは捕まらないでくれることを祈るばかりだよ」 「リコのこと知っていたのか」 「おれのバディだったからな」 ピートはおどろいた。ノリーがアクトーレスだということをすっかり忘れていた。 そうだろう、とノリーは眉を下げて笑った。 「きみはおれのことを都合のいいビッチとしか、見てないのさ」 「なんてこと言うんだよ」 ピートは乱暴にカップを置いた。 「おれは、将来おまえのために牧場をはじめようと真剣に考えている男なんだぞ」 「どうしたんだい、いったい」 「どうしたもこうしたもあるか。おれは明日にでも貯金を全額下ろすつもりなんだ。馬っていったいいくらするんだ?」 |
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