第4話 |
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ふしぎなことだ。 嫉妬なら、メイドがいると聞いた時に、起こるべきだった。美しい犬だと聞いた時に苦悶すべきだった。 だが、おれはわからなかった。なにが起こったか。 はかない期待が消えたのだとわからなかった。 自分が期待していたことにも気づかなかった。おれは二年前、あの男に出会い、希望をもったのだ。生き続ける気になった。 たったあれだけで、行きすぎただけで。 公園のふたりを見て、ようやく理解した。 なんの約束もなかった。 待っていた手は来ない。おれは救われない。 おれは永遠にここにいることがわかった。 「レオン」 おれは列から進み出て、服のボタンをはずす。重い乳房をとり出す。 ほかのメイドは無言で、部屋から出て行く。 主人に乳房をふくませ、ベッドに横たわる。生暖かい手に乳房を揉まれ、目をとじる。 ひとすじのぬるい快感が腹のなかを通っていく。 乳房から強く血を吸われる。つま先まで。 おれは脂っぽい主人の禿頭を?き抱く。ひざをひらき、主人のからだをはさみ、腰をすりつける。 「ご主人様――」 スカートのなかに、主人のペニスに入ってくる。濡れた淫猥な塊がおれのペニスにからみつく。 スカートのなかで腰をすり合わせる。くねくねと、もどかしく快感だけを求めて。 「アッ――んん――アっ」 かたい布と生暖かいペニスの感触。粘液にまみれながら、ひたすらおろかしく腰を振る。 「アアッ――アアッ――」 何も変わらない。何も感じない。淡々と同じ日が過ぎていく。 希望がなくなっても、変わらず日は過ぎていく。朝は目がさめる。なにもない一日のために、起きあがる。 「おまえのせいで、恥をかいたぞ」 主人はグレッグに文句を言った。 子爵は主人の申し出を断った。日本犬を売るつもりはないという。 売るわけがない。あのふたりは花と風のように調和していた。 「それは、何もないのに売らんでしょう」 グレッグはいいわけした。 「前はあの子が隙を見せたから、勘気を受けたわけで。あの子のほうから落としていけばいいんですよ」 「花でも持っていけというのか!」 よほど体裁の悪い思いをしたか、主人は日本犬への興味をうしなった。 さらに子爵も日本に帰国してしまった。 「いまがチャンスですよ。犬は飢えています」 グレッグはなお言ったが、主人は才走った甥をうるさがった。 「おまえも少しは勉強しろ」 主人は彼にアメリカの議員を紹介し、アメリカの政局について学んで来いと命じた。厄介払いである。 グレッグはヴィラから去った。 一方、小さな事件が起き、おれは主人の気に入りではなくなった。 アンリの乳房から母乳が出るようになったのである。 男の胸から母乳が出ることは、珍奇なことではあるが、ないわけではない。 乳腺は人間のからだにひとしくついている。剣闘士訓練所で、ストレスのあまり母乳を出した男を見たことがある。 「アンリ」 夜は彼が呼ばれるようになった。アンリは顔をあげ、前へ進み出る。 おれの順位は下がった。二位以下は、ただの壁の花だ。すごすごと引き下がる。 自分の部屋に戻るとたいがい、調理場の使用人が待ち構えている。 「アンリの命令でな」 寵をうしなうということは、主人の保護がなくなるということだ。首位者の命令に逆らえなくなる。 「服を脱げ」 おれはこの男を投げ飛ばすことはできるのである。弱くなったが、たぶん、ひとりふたりならまだやれる。 ただ、その気力が出ない。あれきりずっと、からだのなかが冷え切って、拳をふりまわす力が出ない。 全裸になると、使用人はおれの首輪に鎖をかけた。 「這えよ、ビッチ。みんなのところへ行くんだ」 |
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