第6話 |
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「モルジブ行かなくていいんですか」 「ああ。モルジブね」 喬任は海風に吹かれながら、上機嫌でステーキを切っている。 「そっちも行くが――。先におまえの調教しておかないと」 おれは、外だ、とうなった。ウェイターが喬任のグラスに赤ワインをそそいでいく。 喬任はうまそうにステーキを頬張り、 「犬は最初の躾が肝心だからな。中途半端な飼い方をして、ムダ吼えするようになっちゃこまる。ところで、なんで、アイスコーヒーだけなんだ?」 「食欲がないんですよ!」 ――あんたのチンポコ咥えさせられて! 昨夜は、フェラを強要された。おれは吐いてしまった。だが、吐き終わると、やはり口につっこまれた。口に出された。 何度も消毒液でうがいしたが、いまだ気分が悪い。 「ああ、あれね。ひどい出来だった。今晩はちゃんと飲み込めよ」 「喬任さん!」 おれは耐えかねた。 「口は勘弁してくださいよ」 「なぜ」 「なぜ、って、不衛生でしょうが! あれはひとの――」 ケツにつっこんだモノだろうが、とは、あたりをははばかっていえなかった。 喬任はおかしそうに肩をふるわせ、食べ物を吹かないように唇に力をいれている。ぽんとひとの頭をたたき、 「おれがやれといったらやるの。犬はそういうこと心配しない」 ――犬ってなんだ! いったいなぜ、このおれが、SM調教されねばならないのか。なぜ、こいつをご主人様にいただかねばならないのか。 なぜだかわからないうちに、四日もこいつとここにいる。 四日、毎晩、当然のように抱かれ、調教と称するひどいイヤガラセをされている。 この男はただ抱かない。その前に、こちらの目の玉が飛び出るようなひどい悪戯をする。おれのマヌケなよがり声を録音して聞かせたり、目の前で親父に電話をかけて見せたり。 おれが激怒し、きりきり舞いして、涙ぐんだりするのが楽しいのだ。それを見て欲情するのだ。 (現実のSMってこうなのか?) SMってもうちょっと、イヤヨイヤヨもなんとやらの、ぬるいものじゃなかったのか。 これが現実なら、おれには合わない。消耗の度合いが大きすぎる。 (はやく帰りたい) もうすぐうちのほうも盆休みだ。法事を理由に、帰してくれるよう説得しようと思った。一族の集まりだから、親も口ぞえしてくれるだろう。 「どうせなら、ボートをもってくればよかったな」 喬任は気持ちよさそうに海に目をほそめた。 「船の中なら、一日裸にしておける。水遊びしても掃除がラクだ」 (バーカ、しねしねしね) おれは鼻にしわをよせ、アイスコーヒーを飲んだ。 喬任はほんとうに船を持ってこさせた。 車で伊勢湾をめぐり、マリーナに着くと、羽のように白く輝くプレジャーボートが止めてあった。 「車のキーは上杉に」 喬任は使用人らしい男にキーを預けさせ、おれを船に促した。 白い船体は、宇宙船のような流線型だ。中に入ると、高級クラブのサロンのようだった。楕円のキャビンにあわせて、ソファがしつらえられてある。バーがある。 階段をおりると、マスターベッドルームには王侯が使うようなダブルベッドがあった。もちろん、トイレ・シャワー付き。 喬任は操舵室にいた。 「船酔いはする?」 「たぶん」 ほら、と酔い止めの錠剤を渡す。 自分はてきぱきと出航の操作をした。 歌うようだった。背中が、冒険の乗り出す少年のようにイキイキとしている。 おれは少しぼんやりした。喬任の小さい頭と広い肩の線が、光の加減で透き通って見えた。 「ケイは船はやらないのか。ヨットでも」 「うちは、自家用機とクルーザーは持たないことにしているんです」 「ハハ。堅実な三澤無線らしいな」 エンジン音が響いている。船がゆっくりと動いている。港をすぎていく。 フロントガラスに機嫌のよい水平線が見えた。真夏の濃い海がなだらかにひろがっている。 おれは彼の傍らに立った。 「なにか手伝えることはありますか」 「ん。服脱いで」 彼は前を向いたまま楽しげにいった。 「ここにひざをついて、フェラ」 おれはあたたまった木製のデッキにひざをつき、こめかみから冷や汗をたらして、ふるえていた。 懸命に首をさしのばし、喬任のペニスを吸い上げている。 喬任はディレクターズチェアにゆったりと座り、おれの髪をなでていた。 「だいぶ、うまくなった。もうちょっと裏を舌先でなぞって」 「ふ、グッ」 腹腔がひび割れるような痛みが走る。後ろ手にしばられた腕がこわばりのけぞって咽喉がひらく。 腸のなかには冷たい水が渦巻いていた。 おれはフェラを強いられ、ここでも嘔吐した。二度、試みたが、二度とも胃液を噴き上げた。 『本当にダメです。できません』 『本当にダメかどうかは、おれが決める。うまくなるようにしてやるよ』 そういって、尻のなかにシャワーの湯をそそぎこまれた。 吐いてフラフラになっていたが、それでも必死にもがき暴れた。 数日前、無様に大便失禁した姿を見られたばかりだ。いまだ、あのショックが尾をひいている。恥ずかしくてのたうちまわっている。 それを、 『腹に注意がむいて、吐き気がおさまるだろ。このままじゃ吐き癖がつくからな』 喬任はすずしく言って、おれを股の前にひざまずかせた。 (こんなことまで、されていいのかよ) 痛みと狼狽で、めまいがした。 十分陸から離れているとはいえ、昼間、陽の下だ。船尾デッキのまわりは壁がない。屋根しかない。ほかの船が寄ってきたらどうするのだ。 「ンンッ」 錐で突き上げるような痛みに肩がふるえた。我慢は限界だった。もう飛び出しそうだ。 (これだけは、いくらなんでも) この一線はいくらなんでも越えられない。男がクソをひる姿は少しもエロチックじゃない。下痢の音はぜんぜんエロチックじゃない。おそろしく汚い。臭い。みっともない。 (ヒッ、もう、ダメ……!) 直腸が風船のように大きくふくらんでいる。懸命に締め上げる肛門がビクビクとふるえている。 「トイレ……」 「あとで」 「も、もれる」 「口を放すな。続けろ」 髪をつかまれ、むりやりペニスを口につきこまれた。 顔をうごかそうとするが、身動きならない。舌もうごかない。うすい唾液ばかりが口腔からあふれでた。 「アグ、カッ――」 おれは涙を浮かべて、懇願した。 痛すぎる。寒気がする。吐き気がする。腸がぶちぎれそうに痛い。 ――うああ。 重い波が突きあがり、髪の毛が逆立った。 肛門が爆ける。低い音とともに便のつぶてが噴出する。 「わッ」 とっさに駆け出そうと、立ち上がりかけた。途端に、尻がはげしく爆発した。突進するように、中身が飛び出ていった。 尻から鉄砲水のように汚水が噴き出る。二度、三度、腸をのたうたせ、はげしく汚物を腹から排出する。それは床を叩き、足に落ち、内股にべったり張りついた。 (ア、ア) 第一陣が抜け落ちると、風船のちぢむようなひどい音がした。肛門はひらいたまま硬直していた。はしたない音をたて、残りの汚物を噴き出し、のたうった。 「……」 頭が白く燃えていた。股をぬるい泥水で汚し、赤の他人の目に震え、立ちすくんでいた。 喬任の黒い双眸に妖しい火が映っていた。唇が薄く開き、ぬれている。そのペニスがふとぶとと突き勃ち、血管を脈打たせていた。 やさしい声が言った。 「すわって。つづけて」 一瞬、火が全身をかけめぐった。 ――こいつ、殺す! 恥辱と憤りにわめきかけた時、足もとから重い水音が響いた。ペニスから小便が太く流れ落ちていた。 止められなかった。とっさに筋肉のしぼり方がわからなかった。 「ひ、ヒイッ」 「座れ」 喬任の手が伸び、おれの髪をつかんだ。おれはパニックを起こしていた。小便と汚物の上にひざをつかされ、おれは泣き叫んだ。 太い指が鼻をつまみ、口にねじいれられる。あごを無理やりあけられ、ペニスを突き込まれた。 「ぐう、――」 おれはもがいた。がっちりつかまれた頭を引こうと唸り、膝をつっぱり、肩をねじってわめいた。 それでも、なぜか噛まなかった。耳をつかまれ、大きな両手に顔をはさまれたままむせび泣き、なぜか、熱い塊をほおばって、舌を動かしていた。 |
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