2012年11月1日〜15日
11月1日 補佐 〔家令控え室〕

 やれやれ。ハロウィンが無事終わったようです。

 むかしは犬にキャンディをもらいに行かせるご主人様がいて、トラブルが絶えませんでした。

 禁止すると、ドムス・ロサエの方々がキャンディをもらいにまわる遊びをはじめ、これまたトラブルに。

 彼らはお尻にキャンディを、とせがんだので。(笑)

 あるご主人様が、

「美男を愛でにヴィラに来たのに、なぜブスの客にサービスせねばならんのか」

 拒否したところ、お化けたちの怒りを買い、とりまかれて性的にイタズラされたそうです。(笑)


11月2日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 エリックが左目に眼帯をしています。

 あまりしゃべらず、夜は自室にこもってしまいます。部屋をのぞくと、彼はぐるぐる歩きまわりつつ、うわごとのように何かつぶやいています。

 電気は寝ている間もつけっぱなし。
 夜中、たまに怒号が鳴り響きます。

 ハロウィンからです。あの祭りの夜、彼はおそろしい目にあったのです。


11月3日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 あの晩、おれたちは公園のハロウィン・パーティーに繰り出しました。

 公園にお化け屋敷が出ていたのです。おれとキースはエリックを誘いました。

 エリックは渋りました。彼はタフな男ですが、お化けだけはダメなのです。それはホラーゲームをやった時からわかっていました。

 でも、しょせん子ども騙しの遊びだから、としつこく誘うと彼も同意してついてきました。

 思えば、愚かなことをしたものです。


11月4日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 お化け屋敷はなかなか楽しいものでした。

 ホログラムを使った幽霊が空中を乱舞したり、首なし人形が追いかけてきたり。

 暗いのでそれなりにドキドキします。すくみあがって座りこんでいるやつもいました。

 エリックも引き攣ってはいましたが、男らしく恐怖に耐えてつき進んでいました。おれとキースの手首を痛いほど握り締めていましたがね。

 出た後、彼はミハイルたちにも勧めさえしました。でも、ミハイルは入りませんでした。

「ここの公園、本当に出るらしい」


11月5日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 アルも聞いたことがある、と言いました。

「この公園、もともとでかいドムスだったんだが、かんばしくない事件が続くんで潰して公園にしたんだよ」

 おれたちは興奮し、その流れで家で怪談をすることにしたのです。おれたちは中庭に集まり、ピザを食べながら話しました。

「こういうのって、本当に引き寄せるんだよ」

 とアルが怖がらせます。エリックはすでに無口になっています。
 おれは笑いました。

「一番怖い話をしたやつ、明日王様」

 おれは今、自分のこの言葉を後悔しています。


11月6日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 みんなひとつずつ「本当にあった話」とか「おれの友人が体験した話」とかいいながら、怖い話を持ち寄りました。

 おれは警官時代に聞いた出口のないスラムの話をしました。

 キースは幽霊フェンサーの話。

 アルはイタリアの変死者が続出する家系の話、フィルは誰が経営してもつぶれてしまう因縁の土地の話をしました。

 エリックは渋りつつも、軍隊時代に聞いた幽霊話を披露して、みんなを楽しませました。

 ミハイルの順番がきました。

「じゃあ、おれはあの公園に実際にあった話をしよう」


11月7日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ミハイルは静かに話しました。

「あの場所には、小奇麗なドムスがあったんだ。町の中心部にあるから便利なはずだが、なかなか売れない。だが、ついにひとりの客が異常な安値に気づいて買うことにしたんだな」

 しかし、家令はなぜか別の物件をしきりに勧める。理由ははっきり言わない。問い詰めると、

「あの家で、住人が行方不明になったり、亡くなられる事件が多いので」

 幽霊物件だった。

 だが、その客はイギリス人だったんで、買った。


11月8日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 おれはうなずいた。

「イギリス人はケチだからな」

 エリックが唸る。

「幽霊好きが多いんだよ。出る家のほうが高いんだ」

 ミハイルがおだやかに話を戻す。

「その男は犬を複数持っていた。彼は新しい犬をそこに住まわせたかった。

 犬はもちろんよろこんだ。ここなら、誰に気兼ねすることなくご主人様と過ごせる。ふたりは使用人もおかず、新婚のように楽しんでいたんだ。

 だが、犬が時々、へんなことを言うようになった」


11月9日 ロビン 〔調教ゲーム〕
 
 ベッドでことの真っ最中、犬がひどく狼狽して主人に言う。

「誰か見てる」

 しかし、その部屋は二階。廊下に人はいない。庭にもない。防犯カメラのモニターにも何も映っていない。

 犬にも確認させたが、彼は納得しなかった。

「なんかよくないものが見てる。今も感じる」

 主人はもてあました。気のせいだ、いっそ見せてやれ、と誘ったが、犬は怯えてしまい、聖書の句を唱えて楽しむどころではなかった。

 そんなことが何度か続いた。


11月10日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 犬の気のせいとばかりもいえなかった。

 ふたりがベッドにいる時、壁から唐突にドスンと音がたつ。何かが打ち当たるような音が数回続く。

 さすがに主人も不気味に思い、「壁に死体でも埋まっているのか」と壁を検査させた。

 が、異常はない。聖水もとりよせて撒いたが、音はさらにひどくなった。

 その音はひとつの方向からではない。複数のものがあちこちからしきりと壁に打ち当たっているように聞こえた。


11月11日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 だが、主人は決めかねた。

 音がするだけで実害はない。引っ越すにしても、一度友人たちを招待して楽しんでからにしよう、と。

 やがて、犬が奇怪な行動をとるようになった。

 うろうろ歩きながらひとりごとを言う。さらに、家中に大小の壷を置いた。花瓶やボウルぐらいのものから、人が入るような大きなものもあった。

 そのすべてに水を張った。寝室の壁際にも壷がおかれた。主人が壷に触れると、犬は飛び上がって止めた。

「動かさないで。水面が鏡みたいにまったいらでないとやつらが出てくる」


11月12日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 家中壷だらけになったが、犬は一時より落ち着いた。

 ベッドにいる間もあいかわらず音が鳴る。

 ドスン、ドスンとまるで群衆がとりまき、襲い掛かるような騒ぎになっている。

 だが、犬は動じず、冷笑すら浮かべて壁を見ていた。

「見て、ご主人様。もうヒビが入ってる。隙間からやつらが入ってくるよ。逃げないと死ぬよ」

 主人は閉口したが、犬が騒がないのをよしとして、とりあわなかった。

 だが、ついに主人もその音の正体を見ることになった。


11月13日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 その日は暑かった。
 主人は外から帰ってくると、犬を呼んだ。

 アトリウムで涼みながら待っていたが、なかなか犬が出てこない。笑い声がかすかに聞こえる。
 主人は苛立って犬を大声で呼んだ。

「ご主人様? 帰って来たんですか。今入らないで」

 犬の返事はなぜかアトリウムのなかから聞こえた。主人はそれがアトリウムの中央におかれた水槽から聞こえているのだと気づいた。

 近づき、その水面を見て主人は絶句した。


11月14日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 その水面からなぜか、二階の主寝室が見えた。

 犬はベッドの上で棒を槍のようにかまえ、笑いながら飛び跳ねていた。
 よく見ると、犬は壁に向かってはやしかけている。

 主人は血の気を引かせた。

 その壁のまわりには灰色の人間たちがいた。

 その人間たちは異様に頭が長かった。無毛で、生白く、深海の生きもののように目がなかった。

 それらが跳ねるように部屋に体当たりしていた。


11月15日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 主人はあえいだ。
 飛びのきたかったが、足が動かず水槽から離れられなかった。

 犬が笑いながら煽っている。

「ほうら、入ってくるんだよ。玉無し。ここからだ」

 犬が壁を棒で突く。
 そこにはすでにヒビが入っていて、生き物の長い頭がはさまっている。うねうねとその長い頭が動く。

 だが、ついに頭がすべりこんだ途端、その存在はするりと壷の水のなかに吸い込まれた。
 犬が笑った。

「お帰りはこちらだ」


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